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田澤耕さん「カタルーニャ語 小さなことば 僕の人生」インタビュー 夢を形に、「今」を生きる

田澤耕さん

 人生の岐路に立つ人に、ぜひ読んでほしい一冊だ。銀行員としてスペインに滞在し、好奇心のままに出会いと学びを重ねた先に、フランコ政権下の弾圧を生き延び、今なお600万の人々が大切に使っているカタルーニャ語という「小さなことば」との運命の出会いが待っていた。
 新たな言語をいちから学び、本を書き、翻訳し、辞書まで作った。自らの心が騒ぐ何かにひとたび出会ったら、己の情熱に蓋をするべからず。そんな風に生きていれば、どんな選択もいずれ「正解」になるのだと、この人の人生に説得される。

 カタルーニャ語は方言ではなく、真に自立した優れた言語であると筆者は強調する。スペイン語やフランス語など、同じラテン語にルーツを持つ言語との類似性や差異を知ることは、それぞれの歴史や気質を尊重する精神の礎となる。カタルーニャ自治州の2017年の独立宣言はまだ記憶に新しい。大きな国の秩序が小さな国の多様な文化よりも優先される。そんな危うい時代を私たちは今、生きている。「小さい地域を起点に歴史や地理への関心を有機的に広げていく贅沢(ぜいたく)を、若い人にこそもっと味わってほしい」。真のアカデミズムは権威ではなく、精神の幸福のあくなき追究の源なのだ、と。

 宮沢賢治に太宰治、坂口安吾らの作品を集めた日本文学選集もカタルーニャ語で出した。夢をひとつずつ、着実に形にすることが今の目標だ。数年前にがんを患い、月単位の余命を宣告された。静かに覚悟を定め、6月から1カ月、ピレネー山麓(さんろく)のカタルーニャの別荘で2年ぶりの休暇を過ごした。日本語を学ぶカタルーニャの人々のための本格的な辞書だけは、絶対に完成させると決めた。どんな人間も「今」を生き抜くのみ。それもまた、カタルーニャの人々に教えられた人生の真実だ。(文・吉田純子 写真は本人提供)=朝日新聞2022年8月13日掲載