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棚園正一さん「マンガで読む 学校に行きたくない君へ」インタビュー 「そのときを肯定できるから今がある」16人の体験談

キンタロー。さん、宮本亞門さんも

 「不登校の頃は、ぼくは大人になったら消えるしかないんだって思っていました。30年前は不登校を扱った本なんてなかったし、将来どんな大人になれるのか、誰も紹介してくれなかったんです。当時は、あれもできない、これもできてないと、次から次へ心配ごとを探してしまう毎日でした」

 不登校のときの苦しい心の内をこう振り返る、棚園さん。現在は「経験した自分だから寄り添えることがある」と不登校に関する漫画を描いたり、全国で講演を行ったりしています。学校へ行けないと、今できることすら見えなくなってしまい、周りも「学校に行けることがゴール」と考えがちになります。そうではなく、いろんな可能性があって、いろんな未来がある。それを子どもたち自身に知って欲しいと思って描いたのが新刊『マンガで読む 学校に行きたくない君へ』(ポプラ社)です。

 漫画に出てくるのは、不登校やいじめられた経験のある16人。お笑い芸人のキンタロー。さんや、演出家の宮本亞門さん、思想家の内田樹さんら著名人だけでなく、保健室の先生や不登校新聞の記者、フリースクールに通うようになった子の保護者らの体験談も掲載されています。

『マンガで読む 学校に行きたくない君へ』宮本亞門の気持ち(ポプラ社)より

自分だけが不登校ではない

 作家の町田そのこさんは、自分さえ我慢すればいいと思っていたいじめをひそかに作文として溜めていたことで、周囲の大人たちが気づいて助けてくれます。俳優の田口トモロヲさんは、いじめから不登校になり、居場所となった映画館で表現するおもしろさに目覚め、必死にその道へ突き進みます。どうしても学校に馴染めなかった帰国子女の佐藤祥子さんは、震災ボランティアに思い切って参加することで「普通に暮らす」ことの多様さに気づきます。そういったいろいろな話を知ることで、自分だけが学校に行けないのではなく、みんな同じだと気づいて、気持ちが少しでも変わるきっかけになれたら、と棚園さんは話します。

 「よく、不登校の本に『お子さんが自分から変わるのを待ちましょう』と書いてあるんですが、何を待つんだろう?と考えてしまうんです。それは今が良くないということの裏返しですよね。学校でしかできないことはもちろんあるんですけれど、不登校の今が悪いわけじゃないんです。漫画には、そのときを肯定できるから今がある、という人がたくさん出てきます。登校しても教室に入れずずっと保健室にいた佐倉由紀さんは、大人になって保健室の先生になりました。だから、自分と同じように保健室にしか来れない子の気持ちがわかるんです。漫画の中で『心から思ってもらいたいの、不登校はムダじゃなかったって』と子どもに声をかけるシーンは、心が軽くなる人も多いんじゃないかと思います」

『マンガで読む 学校に行きたくない君へ』佐倉由紀の気持ち(ポプラ社)より

普通の言葉で接してほしい

 学校に行けなくて心が折れているときは、冗談のつもりで言われた何気ない言葉でも深く刺さってしまうことがあります。棚園さんが久しぶりに学校に行けた日に、「ジャンケンで負けたら全員にジュースをおごる」というゲームに参加したことがありました。これはみんなと仲良くなるチャンスだと、わざと負けてジュースを配ったら、「本当に持ってきやがった!」と言われ、友達が受け取ってくれなかったという経験がありました。

 普段、学校という一緒の世界で過ごしていないので、みんなのノリや空気が読めず浮いてしまうことがたくさんあったのです。しかし友達の輪に入ろうと必死になっている子にとって、その一言がまた学校への道を遠のかせてしまいます。やっとの思いで学校へ来ている子がいるということを、多くの人に知って欲しいと棚園さんは言います。勉強についていけなくても、話題についていけなくても、温かい気持ちで受け入れてくれる人がいれば、救われる子がたくさんいるのです。

 「友達からの『何が好きなの?』とか『一緒に遊ぼう』とか、そんな日常の声かけが嬉しかった。学校へ行かない日が多いほど、人との距離感がうまく取れなくなって、相手がひいてしまうことが多かったんです。それに学校の先生も親も、子どものことを想う人ほど、不登校の子に対して何かやらなきゃと思ってしまいます。でも腫れ物扱いでなく、不安や焦りを見せるのでなく、普通に接してほしかったですし、それが一番ありがたかったです」

『マンガで読む 学校に行きたくない君へ』佐倉由紀の気持ち(ポプラ社)より

今を当たり前に過ごして

 不登校セミナーで講演をすると、保護者によく聞かれるのが「どうしたら学校に行けるようになるのか」ということ。でも棚園さんは、学校に行くことが正解とは限らないと言います。

 「学校という壁を越えないといけないと考えると、すごく苦しい。それよりも今を当たり前に過ごすことが大事ですし、自分なりの道を進めばいいんだと考えてもらえたらと思います。ぼく自身、これ以上前に進めないと思ったことは何度もありますが、そのたびに救われるきっかけがありました。この本も誰かの生き方を見つけるヒントになってくれたなら嬉しいです。漫画なら手に取りやすいですし、ノウハウ本としてではなく、何かに気づくきっかけや不安を取り除く一助になれたらと思っています」