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李屏瑤之さん「向日性植物」インタビュー 悲劇で終わらない青春

李屏瑤(りへいよう)さん

 韓国文学や中国SFに続き、近年、台湾発の小説もじわじわと邦訳が進んでいる。本作は、そんなお隣さんから届いた珠玉の青春小説だ。

 主人公は台北の女子校に通う高校1年生。同じ高校に通う学姐(シュエジェー)(先輩)に恋心を抱くが、彼女には、全校生徒が憧れる元恋人がいる。思うようにいかない三角関係と、同性愛を理解しようとしない親からの疎外感。恋の高揚と苦みが、20代半ばとなった主人公の現在の視点から回想される。芥川賞作家・李琴峰さんの翻訳はシームレスで、作品の静謐(せいひつ)な世界観が読み心地のいい日本語に移しかえられている。

 デビュー作となる本作を書き始めたのは、26歳の頃。大学院に通いながら、フリーライターとして身を立てようと忙しい日々を送っていた。「仕事とも大学院の課題とも違う、自分のための物語が必要だった」。深夜、出版のあてもないままネットの掲示板に打ち込んでいった。

 元々、豊富な同性愛小説の歴史がある台湾だが、悲劇的なイメージもあった。レズビアン小説の金字塔『ある鰐(わに)の手記』の著者・邱妙津(きゅうみょうしん)は1995年、留学先のパリで自死。前年には、カップルとみられる女子高校生2人が心中する痛ましい出来事もあった。「レズビアンが自殺しない物語が書きたかった」。掲示板で話題になったことに背中を押され出版社に原稿を送ると、担当者は「すぐ本にしよう」と言ってくれた。高校生らを中心に支持され、9刷のベストセラーになった。

 台湾では3年前、同性婚合法化が実現。アジア初の快挙だが、依然として職場などでセクシュアリティーを公言できない人もいるという。「異性愛者を前提にした社会制度にはまだまだ課題があり、一つ一つデバッグ(不具合を発見・改良する作業)していくしかありません」(文・板垣麻衣子 写真は本人提供)=朝日新聞2022年9月10日掲載