小宮山花さん「私、山小屋はじめます」インタビュー 笑顔で試練を乗り越える

「やっちゃいましたー」
そう言って松葉杖をついて待ち合わせの場所にあらわれた。つい最近、アキレス腱(けん)を断裂してしまったと言う。
「毎年大きな壁が立ちはだかってきましたけど、今年はこれでした」。痛々しいが、笑顔は変わらない。
日本百名山「光岳(てかりだけ)」の山小屋管理人に32歳でなると決意してからの4年間の挑戦の日々を、初の著作でつづった。
並の小屋ではない。南アルプスの「深南部」と呼ばれる場所にある光小屋までは、林道と山道を10時間近く歩かなければならない。山深い小屋の管理人募集をネットで見て「後先考えず」に応募したところから全ては始まった。
「苦労が多そうなことは想像できる。それでも、やってみたいという気持ちが自然と湧き上がってくる」と当時の心情を記している。
苦労は想像を超えていた。1年目はコロナ禍で全面休業、2年目はスタッフ3人全員がコロナにかかり、夏の繁忙期の営業がふいになった。
3年目は小屋開き直前の豪雨で、登山口にいたる林道が土砂崩れで流されて……。
「管理人なんて私にはできなかったんだ」。何度も泣いて、下山も考えたという。
でも、投げ出さなかった。
光岳は日本百名山登山の中でも屈指の難易度を誇る。多くの登山者はトレーニングを重ね、不安とたたかいながら並々ならぬ思いで来る。定員14人から始めた小さな山小屋で創意工夫をこらして客を迎え、心を通わせるうち、一人ひとりの思いが痛いほどわかった。
百名山の全百座完登を光岳で達成した登山者を迎えるエピソードがほほえましい。手作りしたくす玉で、スタッフも他の登山者もみなで「おめでとう」とお祝いする。「うれしい瞬間に立ち会えることもたくさんある。お客さんからも元気をいただいています」
迎えた5年目、今シーズンは、どうなる?
「わたし、山には上がれなくなってしまいました。下界からスタッフを全力でサポートします」
またも訪れた大きな試練。笑顔とひらめきで、きっとまた乗り切ってくれるはずだ。(文・写真 斎藤健一郎)=朝日新聞2025年6月21日掲載