「めをさませ」
夜、月にとまってうっとり寝ていたら……落ちました。まっさかさまに、寝たまんま、ひたすらどんどん落ちていきます。縦開きの絵本のページを上へ上へとめくることで、下へ下へと落ちていく感覚が読者の体にもひしひし。星やコウモリが声をかけます。「めをさませ!」「そのままだと やばいぞ!」「しぬよ!!」。幼児絵本らしからぬ強いことばにドキッ。ギリギリで目を覚ました「ぼく」は、「はっ!」と我に返ります。「ぼく とりだよ!」
落ちていく体感とその後の一転、安堵(あんど)感を幼い子たちと共有して。悩み多き大きい人も我に返って目を覚ますかも。視点を変えれば自我の目覚め、社会への警告……いかようにも深読みできる、懐の深い絵本です。(五味太郎作、絵本館、1540円、2歳から)【絵本評論家・作家 広松由希子さん】
「やまの動物病院」
町のはずれにある小さな動物病院には、まちの先生とねこのとらまるが一緒に暮らしています。まちの先生はお医者さんで、人間たちが連れてくる動物を診察し、夕方には仕事を終え、ゆったりとすごします。一方、昼間は寝てばかりいるとらまるは、夜になると山の動物たちのお医者さんに早変わりし、病気やケガの手当てをしています。ある晩、とらまるの手には負えない患者さんがやってきて……。まちの先生ととらまるの関係が心地よく、幸せな気持ちになります。イラストも楽しいですよ。(なかがわちひろ作・絵、徳間書店、1870円、小学校低中学年から)【ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん】
「アーマのうそ」
うっかりついたうそに苦しめられる女の子アーマの物語。ほんのちょっとの想像力で思いついた「世界一大きな人形を持ってる」といううそが、どんどん自分の手に負えない大きさになっていく。とても深刻な事態だけれど、なんとかしようと試みるアーマの行動はハラハラしつつもユーモラス。また個性的な登場人物たちの存在で物語はコミカルに進行していく。人生の中でうそをついたことがない人なんていないのでは。少し身につまされながらも、笑って楽しめる。(キャロル・ライリー・ブリンク作、谷口由美子訳、堀川理万子絵、文渓堂、1760円、小学校高学年から)【丸善丸の内本店児童書担当 兼森理恵さん】=朝日新聞2022年9月24日掲載