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「キツネ潰し」書評 ばかばかしい でも捨てがたい

評者: トミヤマユキコ / 朝⽇新聞掲載:2022年10月08日
キツネ潰し 誰も覚えていない、奇妙で残酷で間抜けなスポーツ 著者:エドワード・ブルック=ヒッチング 出版社:日経ナショナルジオグラフィック ジャンル:スポーツ

ISBN: 9784863135512
発売⽇: 2022/08/05
サイズ: 19cm/318p

「キツネ潰し」 [著]エドワード・ブルック=ヒッチング

 信じられないかもしれないが、スポーツに関する本である。「キツネ潰し」なんて初耳だけれど、かつてこの謎スポーツを楽しんだ人が本当にいたのだという。創作のようだが、全て事実。マイナーすぎる約100種が読者を待ち受けている。
 キツネを潰すんじゃないよ、かわいそうじゃないか、と思っていると、さらなる被害者が現れる。「リス落とし」「クマいじめ」「猫入り樽(たる)たたき」「豚追い」……動物愛護精神が皆無である。著者によると、「ルールを定めるという考え方は比較的最近になって生じたものであり、何世紀もの間、スポーツとは体を使って楽しむ活動(特に狩り)を指していた」という。なるほど。狩りからスポーツへ至る流れの中で、「残酷」「危険」「ばかばかしい」種目は徐々に姿を消していったのだ。そういう意味では、人間社会が倫理性を獲得する過程を見るようでもある。
 衰退するのも納得のラインアップなのだが、「ばかばかしい」系の種目は、ちょっと捨てがたいような気もちになる。たとえば「暗闇のゴルフ」。リン光を発するペンキを塗ったボールを打つのだが、グローブが燃えてえらいことになったらしい。でも、いまなら安全な蓄光塗料もあるから、火傷(やけど)の心配はなさそうだ。まあ、安全になったところで暗闇に消えていくボールが後を絶たないのだろうと思うと、なんだかおかしい。ちなみにこれを考案したのは、エディンバラ大学の教授である(笑)。
 著者自身は、スキーバレエの復活を望んでいる。フィギュアスケート、クラシックバレエ、体操の動きを取り入れた雪上のダンス。想像する限りではいい感じだ。1988年と92年のオリンピックで公開競技にまでなっているので、実際いい感じだったのだと思う。が、増え続けるルールに選手が音を上げた。そんな衰退の仕方もあるのだ。
 変な本と侮っては勿体(もったい)ない。そこから得られる教訓がいくつもあるのだから。
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Edward Brooke-Hitching 英王立地理学協会フェロー。著書に『世界をおどらせた地図』など。