ISBN: 9784480815651
発売⽇: 2022/09/09
サイズ: 19cm/354p
「インディペンデントの栄光」 [著]堀越謙三 [構成]高崎俊夫
「これほど多種多様な外国映画が、ローカルでも上映されている国は、実は世界でフランスと日本しかないんですよ」。そんな映画大国の首都でミニシアター「ユーロスペース」を長年経営してきた堀越謙三さんが、名編集者の高崎俊夫さんの質問に答える形で自らの人生を振り返っている。
1970年代の岩波ホールを先駆に、80年代にはセゾンや東急などがアート映画をかけるミニシアターに参入。東京は世界に冠たる映画都市になる。堀越さんもその立役者の一人。ユーロスペースは本書のタイトルの通り、インディペンデントとして大企業系のミニシアターに伍(ご)してきた。
彼の業績は劇場だけではない。自ら外国映画を買い付けて配給。アッバス・キアロスタミら世界的監督の映画を製作。さらには映画美学校や東京芸大大学院映像研究科の設立に関わり、濱口竜介監督らを育ててきた。インディペンデントゆえのフットワークで、映画におけるほとんどの仕事を手掛けてきた。この1冊でここ40年の日本のアート映画史が一望出来る。
だからといって教科書のような小難しい本では全然ない。幼い頃から落語に親しんでいたせいだろうか、語り口がめっぽう面白い。いや、面白すぎる。
80年代の映画批評を先導した「季刊リュミエール」について「僕の知的レベルを超えていた」。キアロスタミの「ライク・サムワン・イン・ラブ」を製作した苦労を語る章では「味わったことのない地獄」「プロデューサー冥利(みょうり)とはこういうことですかね」と笑わせる。黒沢清、青山真治、塩田明彦ら、後に著名になる監督たちを講師として抱えていた映画美学校は「学生ではなく、先生が育つ学校と陰口を叩(たた)かれていたらしい(笑)」。
本書から立ち上がってくるのは、堀越さんの心の余裕というか懐の深さだ。だからこそ、怪しげな人々が跳梁(ちょうりょう)する映画界を長年引っ張ってこられたのだろう。
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ほりこし・けんぞう 1945年生まれ。1982年、東京・渋谷に「ユーロスペース」を開館。独自の興行・配給を行う。