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「魔女」書評 形を変えて今も続く選別と抑圧

評者: トミヤマユキコ / 朝⽇新聞掲載:2022年12月10日
魔女 女性たちの不屈の力 著者: 出版社:国書刊行会 ジャンル:社会学

ISBN: 9784336073341
発売⽇: 2022/11/04
サイズ: 20cm/319p

「魔女」 [著]モナ・ショレ

 現代人の魔女に対するイメージは「ファンタジー作品に登場する架空の存在」といったところだろうか。しかし、この世界にはかつて「魔女狩り」があった。架空の話ではなく、本当に。
 魔女には民間療法に精通した者も多く、「共同体で尊敬されているのが常だった」のに、ひとたび魔女狩りが始まってしまえば、そんなのお構いなし。魔女ではない女性も、嫌疑をかけられれば、逃れるのは難しかったという。
 ちなみに、魔術を使うのは女性だけではない。男性だって魔術を用いていたのに、彼らの罪はなぜか軽かった。つまり、魔女狩りという虐殺行為には、女性蔑視(ミソジニー)が潜んでいたのである。
 本書の冒頭を少し読むだけで、魔女狩りがいかに残虐で、そのくせシレッとなかったことにされているかがわかる。そして著者が注目するのは、魔女狩りによって顕現した女性への偏見や暴力が、その後どのように形を変えていったかということ。なかったことにされている魔女狩りは、水面下に潜り、別のやり方で女性を選別し、抑圧している。
 著者は「現代の魔女」として、結婚しない女性、子どもを持たない女性、老いた女性などを挙げる。そして、高名なフェミニストから市井の主婦にいたるまで、膨大な実例を紹介しながら、彼女たちの魔女性について語る。これだけ実例があるということは、誰だって魔女認定される可能性があるということだが、さて、ただ自分らしく生きているだけの女性を魔女認定して喜ぶ者は誰か。父権的な社会システムと、その支持者に違いない。
 私は子なしの中年女性なので、魔女成分はそれなりに濃い方だ。世が世なら殺されていたかも。こんなことで殺されては、たまったもんじゃない。かといって、唯々諾々と魔女を辞めるなんて、もっと嫌。本書を座右の書として、魔女らしく生き、他の魔女を大いに励ましたいと思う。
    ◇
Mona Chollet 1973年生まれ。ジャーナリスト、エッセイスト。仏紙「ル・モンド・ディプロマティーク」編集長。