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金子信久「もっと知りたい 司馬江漢と亜欧堂田善」 洋画ではなく洋画風、その懸命さがいとおしい

亜欧堂田善の「両国図」(秋田市立千秋美術館蔵)の一部をあしらった表紙

 中華風の味付けと言う場合、中華料理ではない。同様に、洋風画は洋画ではなく、あくまでも「風」なのだろう。

 しかし明治以降の洋画に比べ、江戸期の司馬江漢と亜欧堂田善(でんぜん)の洋風画は、実におおらかで楽しい。西洋の油彩画の実物がほとんど日本にない時代、銅版画などに学んだらしく、遠近法も見よう見まねだろう。見たことのない西洋の風俗を描くと、かなりキッチュだが、

 日本の風物を描いても奇妙さは残る。自製の油絵の具は光沢が乏しく泥絵に近い。江漢「七里ケ浜図」は、奥に富士山がそびえる雄大な光景のはずだが、丸みを帯びた造形と明るい色彩で、可愛らしくも銭湯画的だ。千葉市美術館で大回顧展が開催中の田善の「墨堤観桜図」や「両国図」は奥行きのある壮大なパノラマなのに、ひょろりとゆがむ人物の造形がなんともおかしい。

 西洋を仰ぎ見て必死に学んだ明治の画家たちと違い、著者・金子信久氏が指摘するように、西洋画も面白い絵の一つとして自由に創作に生かしたのだろう。この絶妙な距離の取り方、「風」おそるべし。=朝日新聞2023年2月4日掲載