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吉川祐介「限界ニュータウン 荒廃する超郊外の分譲地」鉄道との結びつきなければ

 日本では、大都市郊外の住宅地は鉄道の駅を中心として開発されてきた。阪急の創業者、小林一三(いちぞう)が始めたこの手法はほかの私鉄に受け継がれ、戦後の大規模団地やニュータウンも鉄道が通じることを前提に造成された。たとえ戦後にアメリカニゼーションが進んでも、自家用車で都心に通勤するスタイルは定着しなかった。
 ところが、こうした潮流に抗するかのように、1970年代には千葉県北東部の北総台地に小規模の分譲地が数多く造成され、後には少数ながら住宅も建てられた。本書はそこに移り住んだ著者が、なぜこの地域に荒廃した分譲地が多いのかという疑問から出発し、取材を重ねた成果をまとめたものだ。
 近くに鉄道の駅どころかバスの便すらろくになく、都心に通うには困難な場所なのに造成されたのは、成田空港の開港を当て込んだからだった。国際空港ができれば、都心から離れていても連動して地価は上がるとにらんだわけだ。つまり実際に住むというよりは、むしろ投機目的の開発だった。

 それから半世紀近い年月を経て、首都圏の鉄道網や高速道路網の整備が進んだ。成田空港の開港に伴い、アクセスを改善するための鉄道や高速道路も新たに建設された。
 だが、その恩恵は千葉県北東部にまで十分及ばなかった。鉄道はせいぜい単線のJRがあるだけで、電車も1時間に1、2本しかない時間帯が大半。しかも分譲地は駅から遠いときている。市場価格は暴落し、多くの土地が空き地のまま荒廃するのは必然のなりゆきだった。
 著者が「限界ニュータウン」と呼ぶ幻の住宅地は、成田空港が都心の駅のようになり、周辺の地価も上がるという想定が見事に外れた「残骸」だったのではないか。本書が逆説的に示すのは、どれほど自家用車が普及しようが、大都市の郊外では鉄道と住宅の結びつきが強くなければ街として発展しないという教訓にほかならない。=朝日新聞2023年2月11日掲載

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 太郎次郎社エディタス・1980円=4刷1万部。昨年10月刊。「著者のブログやユーチューブから広がり、不動産や都市問題に関心がある人に届いているようだ」と担当者。