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変化するスポーツマンガの王道、新たな挑戦に期待 学慶人「アオバノバスケ」(第136回)

 

 昨年12月の公開から86日間(226日まで)で興行収入112億円、観客動員数774万人を突破。原作者の井上雄彦がみずから監督を務めた話題のアニメ映画『THE FIRST SLAM DUNK』が快進撃を続けている。
 改めていうまでもなく、1990年から1996年まで連載された『SLAM DUNK』は、黄金時代の「週刊少年ジャンプ」(集英社)でも看板となっていたスポーツマンガの金字塔だ。全国の少年たちに空前のバスケブームを巻き起こし、「ジャンプ」が雑誌史上最大部数となる653万部を記録した95年3・4合併号では巻頭オールカラーを飾った。連載終了から10年が経った2006年に行われた文化庁のアンケート企画「日本のメディア芸術100選」ではマンガ部門で堂々の第1位。同じく四半世紀が過ぎた今回の映画の大ヒットを見ても、人気がまったく衰えていないことがうかがえる。
 そこで今回は最新の「高校バスケマンガ」ということで、昨年9月からマンガサイト「コミックDAYS」(講談社)で連載している『アオバノバスケ』(学慶人)を取り上げよう。
 バスケで身長が重要なことは誰でも知っている。『SLAM DUNK』のスタメンを見ても、桜木花道が189センチ、流川楓187センチ、赤木剛憲197センチ、三井寿184センチ、宮城リョータ168センチとなっており、ポイントガードのリョータ以外は全員180センチを超えていた。2004年から「週刊少年マガジン」(講談社)で始まった高校バスケマンガ『あひるの空』(日向武史)の車谷空は149センチだったが、身長が問われるスポーツで小柄な主人公というのはいかにも少年マンガらしい夢のある設定ともいえる。

 一方、『アオバノバスケ』の主人公・青葉太樹(たいじゅ)の身長は200センチ! 『SLAM DUNK』の赤木よりも高く、おそらくバスケマンガの主人公の中で最も長身だろう。
 中学1年生にして190センチを超えていた太樹は、その体格から「異物」扱いされることに傷つき、スポーツから離れていた。そんな中、バスケU16日本代表で唯一の中学生選手である明星(あけほし)レオは、太樹が「身長以上の武器」を持っていることを見抜く。やがて中学を卒業した太樹は「レオを超える」という夢を抱き、都内有数のバスケ強豪校・青蕾(せいらい)高校へと進学する。
 バスケ界では無名だった『SLAM DUNK』の湘北高校や『あひるの空』の九頭龍(くずりゅう)高校と違って、主人公が最初から強豪校に入るというのも珍しい。「親近感あふれる主人公の加入で弱小校が強くなる」という王道に背を向け、あえて読者が感情移入しにくい「体格に恵まれた主人公が強豪校に入る」というのが実にリアルだ。また、身長2メートルで身体能力も高い太樹が簡単には活躍できない展開から、「バスケは身長だけでは決まらない」という逆説的な作者のメッセージも感じられる。はたして『SLAM DUNK』にどこまで迫れるか、注目したい。