厚生労働省の専門家部会は12日、先天性心疾患の患者の手術で使う心・血管修復パッチ「シンフォリウム」の製造販売承認を了承した。大阪医科薬科大学、福井経編(たてあみ)興業(福井市)、帝人(大阪市)の3者が共同開発した医療機器で、その開発の経緯は、池井戸潤さんの小説『下町ロケット ガウディ計画』(小学館文庫)に登場する新技術のモチーフになった。近く正式に承認され、実用化される見込みだ。
生まれつき心臓に病気がある先天性心疾患の赤ちゃんは100人に1人の割合でいるとされる。欠損した心臓の組織や狭くなった血管を、修復したり補強したりするために、パッチ(つぎ当て)を手術で埋め込む。患者の成長に伴い心臓も大きくなるため、再手術が必要となることがあった。
3者によると、開発したパッチは、体内で吸収される糸と吸収されない2種類の糸を編み込み、ゼラチン膜でコーティング。術後、ゼラチン膜とともに吸収された糸が心臓組織で分解されることで、パッチが伸長し、劣化や再手術のリスクを低減することができるという。
臨床試験では、34人に心房中隔欠損修復や肺動脈形成などの手術を実施。術後1年では、パッチによる不具合が原因の死亡や再手術、埋め込み部分への再治療はなかった。
池井戸さんの小説『下町ロケット ガウディ計画』では、心臓に埋め込む人工弁開発に奮闘する町工場が描かれた。そのモデルとなったのは福井市の繊維企業、福井経編。同社の編み込み技術がパッチの開発に生かされた。高木義秀社長は「『下町ロケット』によって、パッチ開発の実現への思いが強まった。実用化が近づいてうれしい」と話している。
(神宮司実玲)朝日新聞デジタル2023年06月14日掲載