「とってもすてきなおうちです」
題名通り、すてきな家の立つ表紙を開くと「じまんの わがやへ ようこそ」と迎え入れてくれるのは、庭のアリ。広くて部屋数もたっぷり。夏は冷たく、冬あたたかい土の家です。
アリの次には、モンシロチョウが。子どもの青虫は丸ごと食べられるキャベツに住み、大人たちは隣の「カフェ」で花の蜜で一服します。雨上がりに光るクモの家に、春になると帰ってくる軒下のツバメの家。奥に描かれた家屋を出入りするのはネコと、その「めしつかい」。ゆるやかに視点が移り、それぞれのことばでユーモラスに「わがや」が紹介されます。
チョウはクモが、クモはツバメが、ツバメはネコが苦手。みんなの「すてきな おうち」には困るところもありますが、ほどほどおおらかに受け入れて、共生している家なのです。
窓の開け放たれた、素朴な木造の一軒家。風通しのよい余白と、輪郭線を引かない没骨(もっこつ)法による水彩画が、自然と人の関係をやわらかくつなぎます。生きものみんなが線引きせずに暮らしあう、空間の心地よさを肌によみがえらせます。(なかがわちひろ文、高橋和枝絵、アリス館、1650円、4歳から)【絵本評論家・作家 広松由希子さん】
「シッカとマルガレータ 戦争の国からきたきょうだい」
表紙には、見つめ合う2人の少女。その一人、海の東に住むシッカは戦争をのがれて独りで遠い国へ避難してきた。もう一人、海の西に住むマルガレータは、“ビックリさん”が家に来ると言われて犬をもらえるのかと期待していたら、同じ家で暮らすのはシッカだと知ってがっかりする。2人の少女は反目し合うが、ある雷雨の日をきっかけに、おたがいをわかりあえるようになっていく。見知らぬ国にやってきた子の心細さも、急に入り込んできた者を受容できない子の気もちも、読者にリアルに伝わってくる。(スタルク作、ヴィルセン絵、きただいえりこ訳、子どもの未来社、1870円、小学校中学年から)【翻訳家 さくまゆみこさん】
「ドアのむこうの国へのパスポート」
ラウレンゾーは支援学級に通っている。クラスの仲間は10人で、みんなトム先生に本を読んでもらうのが大好きだ。なぜならひとりで読むのが苦手だから。ある時、面白い話を書いてくれた作家に手紙を書いて届けることにした。ラウレンゾーとテヤが代表して作家の家を訪ねると、そこにはなぞめいたドアがあり、そのドアの向こうには特別なパスポートを持った人しか入れないという。ドアの向こうには何があるのか。
障害のある子どもと大人のやさしいやりとりに心があたたかくなる。(ドラフト、クロムハウト作、ファース絵、西村由美訳、岩波書店、1980円、小学5年生から)【ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん】
広い世界、子どもから見ると
「せかいのあいさつ」(こがようこ文、下田昌克絵、岡本啓史監修、童心社)は、あいさつを通して世界を身近に感じられるシリーズ絵本だ。せかいの「おはよう」「ありがとう」「あそぼう」の全3巻で、計18カ国、18言語が子どもの目線から紹介される。
イラストレーターの下田さんは当初、この仕事を断ったという。「国をひとくくりにはできないと思ったんです。でも、類型的に『アメリカ人』とまとめるのではなく、その国に暮らす一人の目線でなら描けるかもしれない。そう考えて引き受けることにしました」。絵本で紹介されるのは、その国を代表するエピソードではなく、一人一人の物語だ。米・ニューヨークに住むエマは、朝ごはんにお父さんが焼いたカリカリベーコンを食べられてご満悦。エジプト・カイロで暮らすハサンは、「シーガ」という、マスに置いたコマを動かし並べていくゲームのことで頭がいっぱいだ。18人の小さな幸せを鮮やかに描いている。
絵本作家のこがさんは、「絵本を通して、世界が広いということも、世界は身近だということも知ってほしい」と話す。子どもたちの語りからは、文化の違いを学ぶと同時に親近感を抱く。好きな人、ものに出会える喜び、仲良しの友達と離ればなれになる寂しさ……登場人物の喜怒哀楽は、読者の記憶や感情を刺激する。「この絵本が、世界とつながるきっかけになれば良いと願っています」(田中瞳子)=朝日新聞2023年6月24日掲載