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クリスティアン・ベネディクト、ミンナ・トゥーンベリエル「熟睡者」 研究が明かす睡眠の重要性

 社会の多様化・情報化が進む中で、睡眠に悩みを抱える方も多くなっている。デジタル革命に代表される社会の変化により、脳にかつてないほどの負荷をかけているのにもかかわらず、その脳をメンテナンスするための睡眠にはしわ寄せがきている。最近、睡眠に関する書籍が多くなっていることにもこうした背景が影響しているだろう。

 本書も睡眠啓発本であり、スウェーデンのウプサラ大学において睡眠研究を牽引(けんいん)するクリスティアン・ベネディクト博士とジャーナリストであるミンナ・トゥーンベリエル氏によるものだ。睡眠の効能と、睡眠をおろそかにするとどんな損失があるのか、現代人の社会生活が睡眠に及ぼす悪影響などを説いているが、エビデンス(科学的根拠)になる研究を紹介しながら議論を進めているのが良い。

 さまざまな喩(たと)えが巧妙に使われており、多彩な文章表現が読者を飽きさせない。イメージを容易にする工夫がされており、読み進めるのをスムーズにし、好感を持たせる要因となっている。体内時計に対する影響を意識した「光」との付き合い方、良い睡眠を迎えるための昼間の過ごし方、睡眠が健康に果たす多くの効果など網羅的に取り上げられた多くの研究は情報量が豊富であり、知識を深めるのに役立つ。

 ただし、読者には一定のリテラシーが求められる。追試やサポートのない単発の論文や限られた研究から得られた知見が確立した事実かのように断定的に提示されている点には注意が必要だ。研究者など専門的な立場からは違和感がある。また、恐怖心をあおられると睡眠に対する過度な意識が逆効果となる可能性もある。これらを信じすぎて、こだわって頭を悩ませるのも望ましくないと思う。

 しかし一般の読者にとっては、この歯切れのよさが好印象を持たせるだろう。全体として、本書は睡眠に関し、読者に興味深い洞察をもたらす読み物になっている。=朝日新聞2023年9月2日掲載

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 鈴木ファストアーベント理恵訳、サンマーク出版・1760円=3刷6万5千部、7月刊。「主な購読者は20~50代の男性」という。