手に取ってまずしょうが焼きのページに目が留まった。千切りキャベツに紫キャベツが少々交じっている。こうすると見栄えはいいがビギナーには手間だなと思ったが、材料欄に「キャベツ……4枚(1枚は紫色のキャベツにするときれい)」と書かれていて納得。キャベツって紫のもあるんだと発見する子もいれば、「どんな味?」と好奇心を膨らます子もいるはず。大人が読めば「紫が入るだけで洒落(しゃれ)て見える!」「食欲そそられるな」と思うかも。「入れたらきれい」の書き方ひとつで「入れなくてもいい」とも伝わる。こんな細かい配慮と意図が、本のあちこちから感じられる。
本書は「みんなが世の中で食べている料理って、こうやって作られている」ということをしっかり体験できる本だ。手間のかかる料理も多い。オムライスも作ればウスターソースのレシピまで! 最近の料理雑誌は「なるたけ手間なし、材料も少ない時短料理」がメインである。時代と逆行するようだが、だからこそ「いつも食べてるものって、手間も時間もかかるんだな、洗い物も出るし、食材を買い集めるのも大変だ」と感じられるはず。最初から時短料理ばかり作ると、何が省かれていてラクなのか分からない。親が作ってくれるハンバーグひとつ、ランチに食べる刺し身丼ひとつ、完成までに「こんなにやることあるのか」と理解できると、感謝の念の萌芽(ほうが)にも繫(つな)がるもの。
何かを食べるときは必ず「誰かの手間」を同時に食べている。この本はそんな学びも派生するよう作られていると思う。肉、野菜、魚が体にもたらしてくれるものの説明も巧みで、食の大切さを説教感なく伝えたいという思いが感じられる。人って学びたいけど説教されるのはイヤなもの。そういう意味でもフラットな著者のまなざしが心地よい。
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小学館クリエイティブ・1760円。23年7月刊、13刷15万部。「読者には男性も多く、小学生の祖父母世代まで幅広い。購入後、誰かへのプレゼントに再購入する方もいるようだ」と担当編集者。=朝日新聞2025年5月17日掲載
