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鈴木俊貴「僕には鳥の言葉がわかる」 「ヂヂヂヂ!」を研究したら

 国立科学博物館の自然教育園(東京都港区白金台)では、数多くの愛鳥家が鳥たちのさえずりに耳を傾けながら、カメラや双眼鏡を手に森を見回している。

 鈴木俊貴さんはシジュウカラなどの鳥類を軽井沢の森の中で観察する中で、鳥たちにも豊かな言葉のコミュニケーションがあることに気づいた。研究という学術の土俵でどのようなデータを提示すれば、「言語を持つのは人間だけだ」という学界の常識を変えることが出来るのか。鈴木さんの観察や実験の積み重ね、発想の転換の物語に私は心の中で拍手した。

 国立科学博物館で開催した「恐竜博2016」の中で、私は恐竜の鳴き声の最新研究を解説した。鳴き声は恐竜研究の最大の謎のひとつ。パラサウロロフスという草食恐竜には頭にトロンボーンのような突起がある。突起は鼻道の一部でその長さと太さから、音を推定することが出来る。パラサウロロフスの子どもの化石が見つかり、突起は細く短く、出せる音が異なっていたことがわかった。私は鈴木さんからシジュウカラの親とヒナの写真を提供してもらい、鈴木さんの研究を紹介した。近年、他の種類の恐竜の声についても、少しずつだがわかるようになってきている。

 本書を読んだら、森に行ってみよう。「ヂヂヂヂ!(集まれ!)」と聴こえたら、シジュウカラたちを探して、そっと近づいてみよう。もうあなたは森の生態系の一員だ。あなたは研究に興味があるけど何から始めて良いのか困っている人かもしれない。部屋の中で画面をみつめているのではなく、外に出て座ってみよう。それは街中でも良い。自分が止まってみると、あたりのわずかな動きや変化に気がつくことが出来るだろう。それはあなたの新しい興味への出会いにつながるかもしれない。

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 小学館・1870円。25年1月刊。10刷11万部で、月を追うごとに売り上げが伸びている。担当編集者は「平易な言葉選びで、鳥への愛情が深く、明るい筆致で読みやすい。科学の厳密さや研究の知的興奮も追体験できる」と話す。=朝日新聞2025年5月24日掲載