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「宗教の起源」書評 高みから生む結束 そして暴力

評者: 小宮山亮磨 / 朝⽇新聞掲載:2023年10月28日
宗教の起源 私たちにはなぜ〈神〉が必要だったのか 著者:ロビン・ダンバー 出版社:白揚社 ジャンル:哲学・思想・宗教・心理

ISBN: 9784826902489
発売⽇: 2023/10/03
サイズ: 20cm/349p

「宗教の起源」 [著]ロビン・ダンバー

 偏見かもしれないが、神様は説教をたれるものと相場が決まっている。雲の上にいて、何でも知っていて、文字通りの上から目線で人間たちに口を出す、ヒゲの生えた高齢男性。
 でも実は、そんな神様は少数派。生まれたのは2500年ほど前で、20万年に及ぶ現生人類の歴史では、わりと新参者らしい。
 本書によると、宗教は人々を結びつける役割をずっと負ってきた。ヒトは本来、大きな集団で暮らすのには向かない生物だ。よく知らないやつと一緒にいるのはストレスのもと。大人数だと敵に襲われにくくて有利だけれど、我慢できるのはせいぜい150人まで。限界を超えられたのは宗教のおかげだという。
 仲間と一緒に歌って踊り、大麻のような薬物をたしなむ。太古の人たちはそうやってトランス状態に入り、この世のものではない何かを見た。精霊の力に頼るシャーマンも現れた。人口が増え、儀式はしだいに複雑化した。神々が気まぐれに災厄を起こすと信じて、いけにえで彼らのご機嫌をとるようにもなった。
 社会の支配層は儀式が生む結束力を利用した。高みから「道徳」を説き、反社会的な人物に罰を与える神様まで発明してしまった。
 こうした「最終段階」に至った文明は地中海東岸やインド、中国など、北半球の亜熱帯に多い。人口が増えた後に乾燥が進み、食料をめぐる争いが激化した地域。荒れゆく社会を治めるのに、神様のご威光が役立ったというわけだ。でも、大きくなりすぎた信者集団は簡単に分裂し、互いにひどい暴力を振るう。
 人類学の権威が考古学に心理学、神経科学までを動員して書き上げた歴史は、説得力抜群だ。半面、身もふたもまったくない。
 宗教がこんなふうに進化したのは必然。私たちはこれからも宗教から決して離れられないと著者は言う。
 血塗られた過去。いま世界で起きていること。
 思わず目を閉じた。
    ◇
Robin Dunbar 英オックスフォード大名誉教授。人類学者、進化心理学者。2015年、トマス・ハクスリー記念賞。