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「#Z世代的価値観」書評 絶望から変革へ 「豊かさ」問う

評者: 三牧聖子 / 朝⽇新聞掲載:2023年11月11日
#Z世代的価値観 著者:竹田 ダニエル 出版社:講談社 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784065329450
発売⽇: 2023/09/28
サイズ: 19cm/204p

「#Z世代的価値観」 [著]竹田ダニエル

 1990年代半ばから2000年代ごろに生まれたZ世代。社会変革の主体として日本でも注目されるが、米国で生きるZ世代の著者による分析は、私たちの固定観念を覆す。日本でZ世代は「よりよき未来を信じる若者」とポジティブに語られるが、米国Z世代を行動に駆り立てているのは現実の悲惨さ、そして絶望だという。日本でZ世代は、次世代の消費傾向を分析するためのマーケティング用語として普及したが、米国Z世代は、搾取的な資本主義体制に懐疑を抱き、金銭的な豊かさでは測れない価値を希求する。
 米国Z世代も消費欲求から自由ではない。彼らは常時広告に囲まれ、消費行動に走り、罪悪感を抱えながらも、所有を是とする旧来の価値観に抗(あらが)い、人間にとっての「豊かさ」の本質を問うていく。正規品に似せた低価格商品を賢く使う「dupe」のブーム。インフルエンサーに広告させるマーケティング手法に抗う「deinfluence」のトレンド。本書はZ世代の社会変革を、彼らが抱える葛藤や矛盾とともにリアルに描き出していく。
 Z世代は変革に向けてSNSを活用するが、ハッシュタグでは変革できない現実も冷静に見つめる。本書の本文が全米に広がるストライキの章で終わっていることは印象的だ。米国では今、ストの意義が見直されている。賃金のために私生活を犠牲にする生き方に抵抗するZ世代は、職場では「静かな退職(quiet quitting)」と呼ばれる“程々の働き方”を敢行し、ストにも積極的に参加するなど、SNSの外の革命にも本格参入している。著者もその一人だ。
 タイトルの「Z世代的価値観」と、頭に付されたハッシュには世代間共闘への著者の願いがこめられている。Z世代が生み出す新しい価値観は、世代を超えて共有されうる。世代間対立を超え、未来に向けて共闘するために、あらゆる世代の読者に薦めたい。
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Daniel Takeda 1997年生まれ。米カリフォルニア大バークレー校大学院在学中。著者に『世界と私のA to Z』。