「ガンディーの真実」書評 古びぬ問い 今こそ喫緊の課題
ISBN: 9784480075789
発売⽇: 2023/09/07
サイズ: 18cm/278,8p
「ガンディーの真実」 [著]間永次郎
非暴力・不服従運動でインドを独立に導いたガンディー。私たちはその思想の全容を理解しているだろうか。ガンディーはこう明言している。「臆病か暴力のどちらかしか選択肢がないならば、私は疑いなく暴力を選ぶよう助言する」。この言葉だけでも、彼の言う非暴力が単なる物理的暴力の否定でないことがわかる。
本書は、ガンディーの非暴力が、食や衣服、性や宗教など、生活全般に及ぶ「サッティヤーグラハ(真実にしがみつく)」の実践であったことを明らかにする。ガンディーはイギリスによる支配がインドの政治社会だけでなく、味覚や美的感覚にも及んでいると看破していた。ゆえに、生産過程で誰も傷つけず、誰でもアクセスでき、人を健康にする「非暴力的」な食や衣服の探求も、インド独立への重要な実践であった。
著者はガンディーを聖人視しない。ガンディーは異教徒への寛容を追求するあまり、ムスリム農民による暴動で1万超ものヒンドゥー教徒が虐殺された事件を許容した。生活のあらゆる面で「真実」を追求しながら、目を背け続けたのが家族だった。公益への奉仕を決心し、家族生活はじめ私的な幸福全てを断念したガンディーは、父から愛を与えられず道を外れていった長男にも、幼児婚した妻にも冷淡だった。そんなガンディーを家族はどう見ていたのか。妻カストゥールバーの発見された手書きの日記に拠(よ)りつつ著者が示唆する「家族の真実」は、ガンディーがついぞ辿(たど)り着けなかったものであった。
生前ガンディーは、自分の意見は最終的なものではない、と修正の余地を常に残した。暴力の連鎖をどう乗り越えるか。異宗教間の融和はいかに可能か。他者の生を踏みにじらずに生きる術(すべ)は。ガンディーの問いは古くなるどころか、いっそう喫緊のものとなっている。今こそ本書を片手にガンディーと対話し、私たち自身の非暴力思想を練り上げるときである。
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はざま・えいじろう 1984年生まれ。滋賀県立大講師ほか。著書に『ガーンディーの性とナショナリズム』。