かつては、新品だけがいいもので、中古品になると価値が下がるのが当たり前と考えていた昭和世代の私でも、今ではメルカリやブックオフを利用することにすっかり抵抗がなくなった。古民家を再生して住んだり、古着を着こなしたりしている若い世代を見るにつけ、新品か中古品かではなく、モノ自体の価値を見る時代になったのだなと感じる。
そうやって古いモノの見直しが進む一方で、かつてものづくりの現場で培われてきた技能が失われ、今はそれをできる職人がいないという話を聞くことも多くなった。
おそらくそんな危機感から生まれたのだろう。「RE/SAUCE Magazine」は、“ものづくりを再興する”がテーマの新雑誌だ。
「職人目線でモノづくりの本質に迫り、クリエイティブ目線で味付けをする」と巻頭言にある通り、創刊号ではまず廃品を使ったアートの話題で読者の心をつかんでくる。
私がこの雑誌を手にとったのも、裏表紙の花柄毛布でできたアートな車の写真が気になったからだ。毛布アーティスト江頭誠の作品だそうで、花柄毛布のダサさを逆手にとった強烈な作品群から目が離せなかった。
スラムのゴミをアートに変えることで、ガーナの人々の暮らしと環境を守るアーティスト、長坂真護(まご)の記事も面白い。“自分が正義なのかペテン師なのかも分からない”と正直に語るインタビュー。ものづくり技術の話ではないが、再生というテーマは一貫している。
そのほか廃棄予定のスケートボードから靴ベラをつくるプロダクトデザイナーや、非鉄金属の再生を行う鋳物業の老舗企業、使い終わったコーヒー豆のかすからでもシャツを染めてくれる染色職人などを登場させながら、徐々に技術の話に着地していく。
廃棄されるジーンズからつくったデニムのダルマや、廃校からもってきた跳び箱でつくったベンチ、牛乳パックの財布、デッドストックからリメイクされたシャツやパンツといった商品が、カタログのように並ぶページが楽しい。
他方、一番気になったのが、劣化し倒壊のリスクが生じている街灯を低コストで再生させる画期的な工法の紹介記事だった。アートやファッションのようなキャッチーな話題ではないけれど、こうしたインフラの再生技術は今後の日本にとって重要になってくるはずだ。
本誌では、毎号[RE]にこだわった特集を掲げていくという。創刊号のテーマは「リプロダクション」で、次号は「リジェネレーション」。「RE」で始まる言葉が世の中にいくつあるのか知らないが、さまざまなジャンルを横断しながら“ものづくりの再興”を掘り下げていってくれるのだろう。
未来への希望をつなぐ、頼もしいコンセプトだと思ったのである。=朝日新聞2023年12月2日掲載