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雑誌「やさい畑」 土いじりへの熱気受けたわかりやすさ

「やさい畑」2月春準備号

 都心から約1時間のわが家の周囲には、貸農園がたくさんある。先日調べてみたら、どこも空きがなくていっぱいだそうだ。この頃、自分のまわりで農園を借りて野菜を作る人が増えてきた。野菜の値段が高騰しているからとか、万が一に備えて自給できるようになりたいとか、お金をかけずに暮らしを楽しむにはちょうどいいとか、いろんな理由がありそうだけど、人間には齢(とし)をとると土いじりしたくなる本能みたいなものがあるのかもしれない。野菜を作っている人は、みな楽しそうである。

 私自身は手間を考えて躊躇(ちゅうちょ)しているが、書店で「やさい畑」の表紙がやたら目につくようになったのは、誘われているのだろうか。

 ページをめくると、ほとんどがカラーページで写真やイラストが大きく、活(い)き活きした雰囲気が伝わってくる。全ページ実用的な内容なのに、面白く読んだ。

 2月号の特集は、「困った土の整え方」。野菜作りの基礎はやはり土ということで、水はけの悪い畑や、宅地造成された庭、耕作者が毎回異なる貸農園などをどうやって栽培に適した土にするかという図解はとてもわかりやすい。

 さらに記事の多くが比較実験になっているのがいい。たとえば、ジャガイモを病気から守る目的で、米ぬかを平米あたり300g散布した場合と、100g散布した場合、しなかった場合を実際に試してみて、病気になる率を比べる。理科の実験のようで、興味をそそられる。

 全体に感じるのは、洗練された読みやすさだ。文字の並びやイラストの使い方だけの話ではなく、いかに内容を的確に早くわかりやすく伝えるかといった基本が、よく練られている。おかげで、従来なら地味に思われていたジャンルが、あかぬけて表舞台に出てきた印象を受けた、といったら失礼か。

 それは家庭菜園への志向が高まってきたことの証でもあるのだろう。時代が凄(すご)いスピードで変化するなか、地に足のついた生活が再評価されつつあるのかもしれない。=朝日新聞2025年03月01日掲載