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「索引 ~の歴史」書評 短い人生 豊かに過ごすために

評者: 藤野裕子 / 朝⽇新聞掲載:2023年12月09日
索引 〜の歴史 書物史を変えた大発明 著者:小野木明恵 出版社:光文社 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784334100315
発売⽇: 2023/08/23
サイズ: 22cm/429p

「索引 ~の歴史」 [著]デニス・ダンカン

 白状すれば、これまで本を読む際に、索引にまで気を配ってこなかった。浅はかな読書姿勢であった。索引には800年もの歴史があり、実に奥深い世界がひろがっているのに。
 索引が誕生する画期は、13世紀だという。キリスト教の修道士が人びとに説教するにあたり、また大学で学生たちが討論をし、文献からの引用をするにあたり、効率的に読書し、スピーディーに読み返すためのツールが必要となった。
 当時は、この新しい技術が悪影響を及ぼすことが懸念された。索引に過度に依存すると、拾い読みが横行し、本全体を精読しなくなり、注意散漫になるなどだ。ネット検索や人工知能への懸念とよく似ていよう。
 それでも索引は定着する。その理由として本書は「人生は短い」ことを挙げる。目当ての記述を探して、分厚い本を頭から繰るには、人生は短すぎるのだ。
 索引が独立した作品であることも、本書を読むと理解できる。本文の流れとは完全に関係を絶って、事項・人物・主題をアルファベット順(日本語なら50音順)に機械的に並べる。どのような見出しを立項するかが、索引を作る側の腕の見せどころとなる。索引家は、政治家や論敵を当てこするために、「とんでもない愚鈍さ」「外国人への媚(こ)び」などの見出しを潜ませることもあった。
 今では、電子書籍が登場し、簡単に用語を検索できるようになった。索引をコンピューターで自動生成することもできる。索引家の出番はもうなくなってしまうのか。著者は否だという。本書自体の索引に、「索引家による索引」と「自動生成索引」とを並べてみせ、その格段の差を示してみせる。テーマを拾う主題索引は、検索や自動生成ではまだ太刀打ちできないのだ。
 確かに人生は短い。でもだからこそ、本と共に豊かな時間を過ごしたい。これからは、索引を作品として愛(め)でるという読書の新たな楽しみ方ができそうだ。
    ◇
Dennis Duncan ロンドン大准教授。専門は書物史、翻訳、とくにフランス系のアバンギャルド作家の研究。