「漂流する日本企業」書評 配当ばかりに力を入れると
評者: 有田哲文
/ 朝⽇新聞掲載:2024年03月23日
漂流する日本企業 どこで、なにを、間違え、迷走したのか?
著者:伊丹 敬之
出版社:東洋経済新報社
ジャンル:経営・ビジネス
ISBN: 9784492503492
発売⽇: 2023/12/20
サイズ: 19cm/348p
「漂流する日本企業」 [著]伊丹敬之
会社は誰のものか。今世紀の初め、そんな議論が盛んになった。ある論者は「決まってる。株主のものだ」と言い、別の人は「いや、従業員や取引先、顧客など全ての利害関係者のものだ」と反論した。しかし本書を読む限り「株主」に軍配が上がりつつあるようだ。経営学者である著者はそれを嘆く。
本書は統計をもとに日本企業が何にお金を使ってきたかを時系列で追う。浮かび上がったのが、設備投資や人材への投資を軽視し、株主への配当にばかり力を入れるようになった大企業の姿だ。2021年には史上初めて、設備投資額が配当額を下回ったと著者は驚きをもって記す。新設備、新技術にお金をかけなければ、成長などできっこないと。それは株高の裏にある「不都合な真実」なのか。
経営者たちが自信を失い、株主重視の米国型経営へ「漂流」しているのだと著者は言う。熱を帯びた訴えには異論もあろう。論争の書である。