「ナチ親衛隊(SS)」書評 ヒムラーを軸に犯罪性を暴く
評者: 保阪正康
/ 朝⽇新聞掲載:2024年05月18日
ナチ親衛隊
著者:バスティアン・ハイン
出版社:中央公論新社
ジャンル:歴史
ISBN: 9784121027955
発売⽇: 2024/03/18
サイズ: 1.5×17.3cm/256p
「ナチ親衛隊(SS)」 [著]バスティアン・ハイン
著者はドイツの近現代史研究者、ヒトラー時代のナチ党の闘争組織である突撃隊(SA)と親衛隊(SS)がどのような負の役割を担ったか、その俯瞰(ふかん)図を示した書である。「親衛隊の父」ともいうべきハインリヒ・ヒムラーを軸に、この組織の犯罪性を暴いていく。
親衛隊は当初、ナチ党の組織だったが、ヒトラー政権時代にユダヤ人排撃の暴力装置となり、国家の軍事機構、警察機構に入り込む。彼ら「ヒトラーの殺し屋たち」は、歪(ゆが)んだ人種学説を掲げ、狂気と化す。本書はそのプロセスで登場する人物を具体的に論じていく。
例えば、数字上では親衛隊最大の殺人者といわれたオディロ・グロボチュニクは、三つの絶滅収容所を管轄した1年7カ月の間に150万人を殺害する。この人物は青年期からのナチ党員で、大量殺戮(さつりく)工場の効率化を平然と進める怖さを持つ。
著者は、親衛隊の私設軍隊「武装親衛隊」の残虐な戦争犯罪を語り、その行動特性も指摘する。本書を俯瞰図と見て、個別に具体的なテーマに入っていくのが歴史継承の正道だとの思いがする。