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文字では伝わらなかった過去に迫る「古墳と埴輪」 佐藤雄基の新書速報

  1. 『古墳と埴輪(はにわ)』 和田晴吾著 岩波新書 1342円
  2. 『アッシリア 人類最古の帝国』 山田重郎(しげお)著 ちくま新書 1210円

 月並みだが、考古学にはロマンがある。地中に眠る遺跡を発掘し、今は失われた過去の世界を復元する学問。その長年の成果をまとめた2冊を紹介したい。まずは日本。3世紀から6世紀まで各地に無数の巨大墳墓すなわち古墳がつくられた。墳丘上に置かれた埴輪は、人や動物、家などをかたどった素焼きの土器で、ファンも多い。文字資料がほとんど出土しない中、①は古墳や埴輪という「もの」から、文字では伝わらなかった過去に迫る。死者の魂は鳥に誘われた船に乗って天上の他界へと赴くという他界観を古墳に見いだす。中国や朝鮮半島など古代東アジアの葬送文化の中に古墳を位置づける視野の広さも魅力的。古墳づくりのために各地で人々は力を合わせ、各地をつなぐ人・もの・情報の動きも生まれた。古墳づくりは国づくりだった。

 次はアッシリア学の世界的研究者による②。現在のイラクを中心に、紀元前2千年紀から前7世紀まで長きにわたって西アジアに繁栄したアッシリア。世界最初の帝国として聖書にも登場し、西洋文明の源流の一部だが、謎のベールに包まれていた。しかし、巨大な都市遺跡、そして楔形文字の書かれた粘土板や石碑が、焼失せず地中に埋もれていた。発掘・解読された文字資料は、歴史書や叙事詩、行政文書、契約書や手紙など多様で、多民族支配の仕組みだけではなく、社会や生活、個人の肉声や感情までも文字で今に伝えてくれる。日本の古墳時代より千年2千年も前なのに驚きだ。=朝日新聞2024年8月3日掲載