1. HOME
  2. コラム
  3. 新書速報
  4. 20万人が犠牲になった戦いの全体像に迫る「沖縄戦」 佐藤雄基の新書速報!

20万人が犠牲になった戦いの全体像に迫る「沖縄戦」 佐藤雄基の新書速報!

  1. 『沖縄戦 なぜ20万人が犠牲になったのか』 林博史著 集英社新書 1243円
  2. 『歴史のなかの貨幣 銅銭がつないだ東アジア』 黒田明伸著 岩波新書 1056円

 ウクライナ戦争の報道を見ると、日本が戦場となったらどうなるのかと思う。80年前、第2次世界大戦末期の沖縄戦では、20万人の生命が失われた。(1)は長年の研究を踏まえ、体験者の数々の証言や記録から沖縄戦の全体像を分かりやすく描く。「集団自決」は決して住民の意思によるものではなく、日本軍と政府によってそうせざるを得ないように組織的に追い込まれた結果だと明らかにされる。日中戦争における凄惨(せいさん)な加害体験が沖縄で兵士によって語られ、米軍への恐怖が煽(あお)られていた。だが、住民を真に追いつめたのは、中国で民間人の犠牲を厭(いと)わなくなってしまっていた日本の軍隊だった。

 そうした状況下で自ら生き延びようとした個人の体験に目を向けた(1)によると、外国経験や理解が重要な役割を果たした。そこで東アジアの中で日本史を理解しなおすため、(2)を紹介したい。世界史上での貨幣の流通構造を追究してきた著者により、中国から輸入された銅銭を利用した中世日本の歴史が、東アジア圏の中でダイナミックに描かれる。銅銭の価値を決めたのは、日々の取引で利用する「エンドユーザー」だった。中国の古銭は平安時代末期、銅材料として輸入され、大仏や梵鐘(ぼんしょう)の材料となったが、やがて国家権力によらず、人びとの間で自発的に貨幣として利用されていく。江戸初期には国内で模造中国古銭が造られ、ベトナムに輸出すらされた。仮想通貨など通貨が多様化する現在を歴史的に考えるための一冊。=朝日新聞2025年5月10日掲載