ISBN: 9784480864840
発売⽇: 2024/06/28
サイズ: 18.8×1.8cm/240p
「猫社会学、はじめます」 [編著]赤川学 [著]柄本三代子、斎藤環、出口剛司、新島典子、秦美香子
妻の友人からもらった猫が死んで、3年間も「死んだように生き」る悲惨な日々が続き、「早くあの世に行って」猫に会いたいと口走るほどの哀れな猫ロスを経験した社会学者が、仲間の社会学者に呼びかけて「猫社会学」を立ち上げたというのが本書を上梓(じょうし)した直接の動機であるらしい。
猫社会学というのは、猫が「家族」の一員になったのはいつからなのかをサザエさんから読み解いてみたり、人間が猫カフェから何を得ているのか分析してみたり、猫好きには興味深い。
僕は子供の頃から今日まで猫との共生が続いており、何十匹もの猫が鬼籍に入った経験がある。ある日、猫嫌いの何者かによって食べ物に毒を盛られ、2匹の猫が同じ日に亡くなり、幼心に深い傷を負わされたことがあった。数年前には交通事故で内臓が破裂したにもかかわらず、這(は)って家にたどり着き、安心した表情を浮かべて息を引き取った猫もいた。猫の数だけ猫を看取(みと)ってきた。
そして、猫との死別は猫が人間に与えた人間の魂の成長のための猫の役割のひとつではないのかと考えるようになった。
また、猫は僕にとっての生活必需品でもあるが、このことは猫の側からも同様、人間を自らの生活の必需品と考え、人も猫もお互いに共生相手を自らの下僕と思っているところが実に面白い。
さらに猫は芸術家にとって霊感の源泉でありミューズである。猫のマイペースなわがまま、犬のように人に媚(こ)びない、自己中心的な気ままで自由な振るまい。目的も計画も結果も無視した無分別な行動と遊び。そして自らの死を予知する、人間の失った原始の予知能力。死期を知覚するとプイと家出するその死に対する礼節。
芸術家の必須条件を全て兼ね備えた猫の存在そのものが芸術の魔力であり、僕にとっては猫を通して自らの死と向き合う哲学的存在でもある。とかニャンとか言っちゃって。
◇
あかがわ・まなぶ 1967年生まれ。東京大教授。社会問題の社会学、セクシュアリティ研究が専門。『少子化問題の社会学』など。