「12音のブックトーク」
押し付けがましい性格が災いし、小学校生活の最後の最後で友達関係がうまくいかなくなった初奈(はつな)。中学では「おとなしくていい人」という猫をかぶり、周りの目を気にしながら過ごしている。だから、誰ともかかわらなくていい朝読書の時間は初奈にとって貴重なひとときだ。
そんな時間に開いた「ことだまメイト」という1冊の本。誰でもどこかにたった1人、言葉で結ばれた人がいるという。同じ日に、同じ願いごとの言葉を「12音」で書くと、2人は入れ替わってしまうというのだ。
本に書かれた方法を偶然実行してしまった初奈は、朝読書の間だけ「入れ替わり」を体験することになる。1冊の本にまつわる秘密を追いかけるうちに、この本に込められた心からの願い事を知ることになる。
ブックトークを通して、好きなものを押しつけるのではなく、人の心を動かすには相手がどう感じるのかを考えることが必要だと理解していく初奈。言葉の力で成長していく姿がまぶしい。作中のブックトークで紹介される実在の作品も、読んでみたくなる。(丸善丸の内本店児童書担当 兼森理恵さん)
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こまつあやこ作、友風子絵、あかね書房、1430円、中学生から
「待ってろ!甲子園」
トップアスリートやエリートの試合だけがスポーツじゃないよね、と思ったら、このノンフィクションを。主人公は、都立青鳥(せいちょう)特別支援学校のベースボール部。知的障碍(しょうがい)の子どもたちは野球がやりたくても「危ないから」と排除されてきたのだが、久保田浩司先生は、親や同僚や高校野球連盟を説得してこの高校の加盟を認めてもらい、最初は連合チームで、そしてなんと今夏は西東京大会に特別支援学校初の単独での出場を果たした。野球の楽しさや難しさを味わい、変わっていく子どもたちが輝いている。(翻訳家 さくまゆみこさん)
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日比野恭三著、ポプラ社、1980円、小学5年から
「こんやは はなびたいかい」
夜空にどーんと花が咲き、ぱらぱら火のしずくが落ちてきます。人間が夢中になる花火大会、動物園の動物たちはどうしている? 音に驚き穴に隠れるアナグマ。木にしがみつく子ゴリラと寝転んで見物する父ゴリラ。長い首を寄せ合い枝の間からのぞくのはだれ? 遠吠(とおぼ)えで合唱するのは?
花火をこよなく愛した詩人。旭山動物園で取材してふくらませたファンタジーを、自然科学の研究者でもある画家が絵にしました。動物のリアルが人間味も醸し出してユーモラス。目に焼きつき、耳に残る一冊に。(絵本評論家 広松由希子さん)
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きしだえりこ作、あべはるえ絵、福音館書店、1100円、4歳から=朝日新聞2024年8月31日掲載