第171回芥川賞・直木賞の贈呈式が先月23日、東京都内で開かれ、3人の受賞者が喜びを語った。
「サンショウウオの四十九日」(新潮社)で芥川賞を受けた朝比奈秋さんは、過去に受賞した三島由紀夫賞、野間文芸新人賞と合わせて純文学の新人賞3冠を達成した。にもかかわらず、「拭いきれないインスピレーションとして物語が来ると没頭してしまって、僕が書いているのか、物語が僕を通して書いているのかも区別がつかない」と戸惑いのあいさつ。
「真に祝福されているのは僕ではなくて、小説自体だったり、小説に出てくる姉妹だったり、そういうことなんだろうなと。なんであれ、感謝しています。なんであれ、書き続けていきます」と決意を述べた。
「バリ山行」(講談社)で同じく芥川賞の松永K三蔵さんは、亡母への感謝とともに、父親への思いを語った。
文学部を目指していた大学浪人中、「芥川賞を取っても食べていけないぞ」とさとしていた父親は、候補に選ばれても浮ついた様子がなく、結果を伝えようとしても電話に出なかった。受賞が決まってから多忙な日々が続いた数日後、報告に出向こうとした際にも「まずは体を休めなさい」とメールで返信があった。
「父は芥川賞の大きさをよくわかっております。何より誰よりも喜んでくれております。それでも父は、賞よりも、何か大きいものを私にいつも伝えようとしている。ミドルネームのKは父の名のイニシャルです」
「ツミデミック」で光文社に57年ぶりの直木賞をもたらした一穂ミチさんは、小学生時代に遊んだゲーム「ドラゴンクエストⅢ」のラスボス、大魔王ゾーマのせりふ「なにゆえ もがき いきるのか?」から語り始めた。
「この問いかけは大人になればなるほど、私の中で大きくなっていきました。大きな問いに対し、正解ではなくても、たくさんの小説家がつむいできた答えに、私は何度も救われ、背中を押されてきました。私もその問いに小説という形で打ち返してみたくて書き始めた気がしています」と語り、編集者や友人、家族に謝辞を述べた。(野波健祐)=朝日新聞2024年9月4日掲載