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「哺乳類の興隆史」書評 絶滅と進化と 3億年のドラマ

評者: 小宮山亮磨 / 朝⽇新聞掲載:2024年09月07日
哺乳類の興隆史――恐竜の陰を出て、新たな覇者になるまで 著者:スティーブ・ブルサッテ 出版社:みすず書房 ジャンル:科学・テクノロジー

ISBN: 9784622097013
発売⽇: 2024/07/18
サイズ: 19.4×2.7cm/496p

「哺乳類の興隆史」 [著]スティーブ・ブルサッテ

 怪獣っぽくてカッコいい恐竜たちと比べると、地味さが否めない我ら哺乳類。ただ、その歴史を語る本書はじわりと心にしみる、少し大人向けの読み物だ。まるで祖父母が経験した戦火や両親の青春を描いた、自分につながるファミリーヒストリー。山あり谷ありの長編ドラマなのだから。
 哺乳類の祖先が爬虫(はちゅう)類と分かれたのは3億年以上も前。とはいえ当時はうろこに覆われてしっぽも長く、素人目にはトカゲにしか見えない姿だった。そこから1億年かけて、体に毛が生えたり、代謝が上がって体温を保てるようになったりと、哺乳類ならではの特徴を獲得。母乳を出すものが現れたのは、恐竜の登場と同時期だったらしい。
 そして6600万年前、小惑星の地球衝突で恐竜が滅ぶ。ご先祖たちも大打撃を受けたものの、一部がかろうじて生き延びた。体が小さくて何でも食べられる、著者がいうところの「ゴキブリの哺乳類版」だった。
 ライバルがいなくなり、爆発的な進化がそこから始まる。そして生まれた巨大なゾウ、空を自在に飛ぶコウモリ、硬い草でもモリモリ食べるウマ、大海原を回遊するクジラ……彼らがどれだけスゴイ能力の持ち主か、本書は語り尽くす。
 が、巨大噴火や気候変動といった災いで、消えてしまった仲間も多い。
 実は恐竜時代にも、木登りしたり泳いだり滑空したりと、体は小さくても多様な哺乳類がいた。末期に多かったのはコアラのようにおなかの袋で子どもを育てる、有袋類の祖先になったグループだ。でも小惑星衝突で多くが滅んだ。残ったものも隅に追いやられ、今はオーストラリアなど限られた場所にしかいない。
 マンモスは1万年ほど前から激減し、やがていなくなった。ほかの巨大哺乳類も短期間でほぼ全滅。大きな原因は人間による殺戮(さつりく)だという。
 長編ドラマはなお進行中。主役か敵役か。私たちは今のところ、そのメインキャストでもある。
    ◇
Steve Brusatte 1984年生まれ。英エディンバラ大で教鞭を執る。著書に『恐竜の世界史――負け犬が覇者となり、絶滅するまで』など。