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中原中也の英訳、アメリカの研究者が挑む 「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」どう訳す?

ジェフリー・アングルスさん

 アメリカの詩人で日本文学研究者のジェフリー・アングルスさんが、中原中也(1907~37)の詩の英訳に取り組んでいる。「山羊(やぎ)の歌」「在りし日の歌」全編に未刊行作品からの抜粋を加えて、1、2年後の刊行を目指している。

 アングルスさんは71年、米オハイオ州生まれ。高校時代に山口県下関市に3カ月留学した。その後、米国の大学で日本近現代詩を研究し、萩原朔太郎「猫町」を皮切りに、モダニズム作家や詩人らの作品の翻訳を手掛けるようになった。2016年には日本語による自作詩集「わたしの日付変更線」を発表し、読売文学賞を受賞するなど高い評価を受けている。

 アングルスさんが中也に親しむようになったのは、詩人の伊藤比呂美さんに紹介されたことがきっかけ。「中也の作品からは、こんな読み方もあるのかという新しい発見が次々に出てくる。ことばの意味、音楽性、リズムにこだわって訳していくとどんどん楽しくなっていく」

 たとえば「サーカス」のあの有名な「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」は、原文の響きも添えて、現段階ではこう訳す。

 

Baaaaack and fooooorth, back and forth
Yuyaaaaan yuyooooon, Yuya yuyon

 

 「一つのメルヘン」の「それに陽(ひ)は、さらさらと/さらさらと射(さ)してゐるのでありました」は、「s」の響きを重ねて質感を表現した。

 

On which the sun spilled its rays
Sarasara, sarasara

 

 アングルスさんは現在、西ミシガン大学で教授を務める。担当する日本語学科の学生の9割ほどがマンガやアニメをきっかけに日本文学に興味を持つという。「『文豪ストレイドッグス』ファンの学生から、ソウセキってどんな人?と聞かれたりします。作中に出てくる中也にも興味を持ってもらえれば」

 アメリカでは日本文学の専門家でも、詩までは手が回らないことが多く、翻訳が追いついていないという。中也についても網羅的な英訳はごくわずかだ。

 アングルスさんの中也英訳プロジェクトは、全米芸術基金の翻訳援助金の後押しも受けている。

 「翻訳は創作でもある。時間をかけて磨いていると、『これだ!』と電球がぱっとつくような瞬間がある。諦めずに頑張ればおもしろいものが出てくる。耳を澄まして、できるだけ中也の声に近づきたい」(藤崎昭子)=朝日新聞2024年9月18日掲載