1. HOME
  2. 書評
  3. 「眠れない夜に思う、憧れの女たち」書評 規範からはみだした同志追って

「眠れない夜に思う、憧れの女たち」書評 規範からはみだした同志追って

評者: 山内マリコ / 朝⽇新聞掲載:2024年09月21日
眠れない夜に思う、憧れの女たち 著者:ミア・カンキマキ 出版社:草思社 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784794227195
発売⽇: 2024/06/03
サイズ: 12.9×18.8cm/560p

「眠れない夜に思う、憧れの女たち」 [著]ミア・カンキマキ

 読みながら思わず抱きしめたくなる本だ。本というよりこの著者を。
 一九七一年生まれのフィンランド人女性ミア。彼女が書く言葉は不思議と胸に沁(し)みる。それは彼女がさみしさと向き合い真剣に闘っているからにほかならない。四十代、独身、子供なし。仕事も辞めお金もない。本人の言葉を借りればこうだ。
「生きる意味を模索中」
 それを一笑に付す人に用はない。女は結婚し、家事育児に身をやつすものと決めつけ、その規範からはずれた女性をナチュラルに見下している人には。しかし厄介なことに、誰よりその規範を内面化しているのは、ミア自身なのである。(ジェンダーギャップ指数ランキング二位の国でも? 噓〈うそ〉でしょミア。だったら私たちはどうなるの?)
 心に巣食う「こうあるべき」はひどく人を苦しめる。だから彼女は鬱々(うつうつ)として眠れない夜、心の慰めになる偉人女性たちを呼び起こす。社会に押し付けられた「女の幸せ」から勢い良くはみだした同志を思い、残した言葉に耳を傾け、生き様に鼓舞される。ほとんどが、女性解放以前の時代を生きた猛者だ。
 筆頭を飾るカレン・ブリクセンは、ケニアでの生活を綴(つづ)った『アフリカの日々』で知られる世界的作家。ただ思うだけでは足りないミアはすべてを投げうち、アフリカの大地へ降り立つ。旅行記とパラレルでカレンの人生が丹念に開かれていく。カレンの持病に心を寄せ、弱さに切り込み、豪傑のイメージを覆す。あれだけ崇拝しているのに、ミアの人を見る目はまったく曇らない。
 その鋭さでもってミアは、自分自身に潜る。深い内省の旅と、憧れの女性をめぐる時空を超えた旅が折り重なる。旅行家や職業画家など、ロールモデルたちが発掘され、つながり、共鳴する。唯一無二の作風だ。
 ちなみに前作では清少納言を追いかけて来日、京都を彷徨(さまよ)いながら、親友のように「セイ」と呼びかけている。
     ◇
Mia Kankimäki 1971年、フィンランド生まれ。編集者、コピーライターを経て、『清少納言を求めて、フィンランドから京都へ』でデビュー。