「じゃがいも うえたら…」
早春の地面の下。ハタネズミとカメムシはまだ眠っていて、ミミズはトンネルを掘り、アリやワラジムシは穴からそっと顔を出す。小さな者たちのいつもと変わらない暮らしがそこにはある。
ある日、地面にぽっかり穴があき、ジャガイモが一つ埋められる。季節が進むにつれて、そのジャガイモは芽をずんずんのばして葉をしげらせ、花を咲かせる。地面の上では、カタツムリやハチやコガネムシも動き回っている。
育っていくジャガイモの周りにいる虫や鳥や小動物の暮らしを、定点観測で描いた文字なし絵本で、作者はスウェーデンを拠点とするハンガリー人の若い女性。読者は好きなようにお話をつくって楽しめる。
少し擬人化された愛らしい小さな生きものたちが、ふだん私たちには見えない地面の下の小宇宙について、教えてくれる。
絵は、炭、コーヒー、ホウレン草、タマネギの皮など、天然素材から抽出した顔料で描かれている。登場する生きもの16種については、巻末に解説がある。(翻訳家 さくまゆみこさん)
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ユリ・リトケイ作、山根玲子解説訳、BL出版、2090円、5歳から
「りすのエメラルド きょうはおでかけ」
りすのエメラルドは、なかよしのシマリスのくるみちゃんと、ひつじのおばさまの車で今日はデパートにおでかけ。でも、町でみかけた赤いバスに乗ってみたくてたまりません。「いいこにしていられたら、こんどはバスにのりましょうね」と言われ、いいこでいようと奮闘する2人なのですが……。様々な大きさの動物が暮らす町は、どこもかしこも工夫でいっぱい。バスには背もたれが網目になった、ハリネズミさん優先の席だってあります。作者が慈しんで丁寧に描いた世界に引き込まれます。(丸善丸の内本店 兼森理恵さん)
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そのだえり作、文溪堂、1760円、5歳から
「いつか、あの博物館で。アンドロイドと不気味の谷」
中学生の悠真(ゆうま)は校外学習で訪れるロボット博物館でアンドロイドを見るのを楽しみにしていた。ところが一緒に行動する班のメンバーがふだん交流のない人たちだったので、うまくやれるか不安だった。しかし展示を見ながらロボットにまつわる話をしているうちに、班の仲間との距離感が縮まった気がした。この体験をきっかけに仲間はそれぞれお互いのことを思いやるようになり、すこしづつ絆を深めていく。それぞれの視点で語られていく中学生活の日常がまぶしく映る物語。(ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん)
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朝比奈あすか著、東京書籍、1650円、小学校高学年から