
ISBN: 9784838733064
発売⽇: 2025/02/26
サイズ: 2.2×18.8cm/288p
「ミアキス・シンフォニー」 [著]加藤シゲアキ
透明な水に垂らしたひと雫(しずく)の色水。その行方を辿(たど)るような気持ちで、ストーリーを追う。0章から6章まで、本書は、複雑なルールのしりとりのように進んでいくのだ。
1章では大学生のあやに、2章では、あやの友人であるまりなの恋人・忠とその弟の涼太に、3章ではあやとまりなの知人である彰人の大叔母が行きつけにしている和食店の店主である橋本に、スポットが当たる。
4章はまりなの離婚した両親である玉美と達彦の、5章は2章で登場した忠のドラマが描かれ、6章へと連なる。それまでの総括のような6章の真ん中にいるのはまりなで、彼女こそが、本書のキーパーソンだ。
「愛とは欲しがっている人すらわからないものらしい。なら、わたしが見つける」
幼い頃、心にそう決めたまりなは、以来ずっと愛の意味を探している。小学校の先生たちに尋ねても、確とした答えは得られず、小学5年生で初めて恋をした時も、「しかし好きは、愛なのだろうか」と考えてしまう。おませさんだなぁ、まりな、でも、いいぞ、まりな、と思う。そういう面倒くさいことを考えるの、すごく大事。
やがて、高校生になったまりなが出会ったのがエーリッヒ・フロムの『愛するということ』。この一冊の哲学書から、まりなの〝実践〟が始まる。1章から5章まで描かれてきた多種多様な登場人物たちは、彼女のその〝実践〟に多かれ少なかれ関わっている人たちなのである。
まりなの、愛って何?という問いかけは、読み手にも向かう。本書で描かれている様々な愛は、どこか身近で、どこか遠い〝誰かの愛〟のサンプルで、ならば、自分にとっての愛とは?と読み進めていくうちに考えてしまうのだ。
愛とは何か。まりなが見つけた答えは、シンプルで、強い。それは、本書の刊行に7年という歳月を費やした、作者自身の答えでも、ある。
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かとう・しげあき 1987年生まれ。作家でNEWSのメンバーとしても活動。『オルタネート』で吉川英治文学新人賞。