評者: 隠岐さや香
/ 朝⽇新聞掲載:2025年04月05日

羊皮紙をめぐる冒険
著者:八木健治
出版社:本の雑誌社
ジャンル:文学・評論
ISBN: 9784860114947
発売⽇: 2024/12/03
サイズ: 12.8×18.8cm/236p
「羊皮紙をめぐる冒険」 [著]八木健治
千年くらい前の西洋と中東では、書物は手書きであり、しかも羊皮紙で作られていた。この羊皮紙はまさに「動物の皮から作る」高価なものであった。色とりどりの絵や文字が描かれたヨーロッパ中世の写本を思い浮かべて欲しい。パルプ製紙が主流となった現在、羊皮紙は宗教用品など、特殊な用途のため一部地域でわずかに生産されるのみである。
だが、著者は敢(あ)えて日本で、しかも自宅の風呂場でこの羊皮紙製作に挑戦する。それは羊の毛皮を強烈な臭いの溶剤で処理し、引きのばして乾燥させたあと刀で薄く削って仕上げるという、時間と体力を使うプロセスであった。試行錯誤を通じて著者は腕を上げ、次第に世界各地の羊皮紙専門家とつながっていく。そしてついには羊皮紙の第一人者の一人として国際シンポジウムをオーガナイズするに至る。
著者によると、羊皮紙は触れて「体験する」ことで先人とつながるものである。膨大に紙を使い、更にはデジタルメディアに囲まれた私たちが見落としていた視点に本書は出会わせてくれる。