
『カフネ』は弟を亡くした野宮薫子が、弟の元恋人・小野寺せつなが勤める家事代行サービス会社「カフネ」の活動を手伝いながら、「食」を通じてせつならとの絆を深めていく物語。
阿部暁子さんは岩手県出身。『屋上ボーイズ』(集英社コバルト文庫)で第17回ロマン大賞を受賞し2008年にデビュー。『パラ・スター〈Side 百花〉』『パラ・スター〈Side 宝良〉』(以上、集英社文庫)は《本の雑誌》が選ぶ2020年度文庫ベスト10第1位に。その他の著書に「鎌倉香房メモリーズ」シリーズ(集英社オレンジ文庫)、『カラフル』(集英社)などがあります。
【好書好日の記事から】
>【書評】「カフネ」濡れた心に差し出す優しさの傘
>本屋大賞の阿部暁子さん「カフネ」どんな本? 「食」を通じ支え合うシスターフッドの物語

阿部さんは「2004年に大学生協の書店で、博士の愛した数式という本を、帯に書いてある『第1回本屋大賞』という文字に惹かれて手に取りました。数字の織りなす美しさと愛に満ちあふれた美しい物語でした。あれから長い時間がたって、今ここに自分が立っていることを光栄に思います。『カフネ』という作品は、思いがけず多くの方に手に取って頂きました。たくさんの人の尽力があって起きた奇跡のようなことでした。全国の書店さんにも、一般の読者さんにも、それだけ本を愛する人がいることは、書き手にとって救いです。私たち書き手がいい物語を書き得たなら、これだけたくさんの人たちが応援してくれることが希望です。頂いた大きな贈り物に報えるように、いい小説家になっていきたい」と喜びを語りました。

プレゼンターとして昨年『成瀬は天下を取りにいく』で本屋大賞を受賞した宮島未奈さんが登場し、阿部さんに花束を手渡しました。宮島さんは「本屋大賞を受賞して、嬉しい、楽しい出来事があった一方、お世話になった書店さんが閉店したり悲しい出来事もありました。ぜひ『カフネ』を始め、今年のノミネート作品もお読み頂きたいですし、そのときはお近くの書店でお求めいただきたい」とスピーチしました。
翻訳部門は「フォース・ウィング」
翻訳小説部門の大賞は、レベッカ・ヤロス著、原島文世訳「フォース・ウィング―第四騎竜団の戦姫―」(早川書房)に決まりました。

本を愛する20歳の女性ヴァイオレットが、意に反して軍人候補生となり、竜に乗って戦う竜騎手をめざし、死と隣り合わせの過酷な訓練に挑みながら、困難を乗り越えて愛と友情を育んでいくファンタジー。2023年に原作が刊行され、TikTokで人気になりました。翻訳した原島文世さんは「圧倒的に不屈の精神で成長していくヴァイオレットの物語を、ぜひ多くの皆さんに楽しんで頂ければと思います。とにかくドキドキ、ハラハラさせられて、物語を読む楽しさを存分に味わえる作品。世界で人を引きつけている原動力になっている」と謝辞を述べました。
超発掘本は「ないもの、あります」
ジャンルや新旧を問わず書店員が「売りたい」と思う本を選ぶ2025年の「超発掘本!」には、クラフト・エヴィング商會の『ないもの、あります』(2001年初版、ちくま文庫)が選ばれました。

「堪忍袋の緒」や「舌鼓」「大風呂敷」など、よく耳にするのに現物を見たことがないものたちを、クラフト・エヴィング商會が取り寄せてユーモアたっぷりに紹介する連作短編集。クラフト・エヴィング商會の吉田篤弘さんは「単行本が出たのが四半世紀前。こういう本が今も書店に並んでいるのは、ひとえに書店員の皆様のおかげです。最近、イニシャルがAIというとんでもない新人が現れて、すぐに技術を習得して手強いのですが、どうも奴は『心』というものを持っていないんです。これこそが究極の『ないもの、あります』なんじゃないか。心というものを大いに活用して、これからも新しいものを作り続けていきたい」とユーモアを交えて話しました。
