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「問題。」書評 どう解く? 家族の「もやもや」

評者: 吉田伸子 / 朝⽇新聞掲載:2025年04月19日
問題。以下の文章を読んで、家族の幸せの形を答えなさい 著者:早見 和真 出版社:朝日新聞出版 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784022520296
発売⽇: 2025/03/07
サイズ: 18.8×2.4cm/360p

「問題。」 [著]早見和真

 この春、受験を終えたみなさま、とりわけ中学受験を終えたみなさま(の、なかんずく保護者さま)、お疲れさまでございました!
 もうね、中学受験は受験者本人が一番大変なんですが、親は親で〝親ぢから〟を試される試金石。なんというか、中学受験にはいい合格と不合格、そうでない合格と不合格、があるんですよ。これ、中学受験を親の立場で経験した私の実感でもあります。
 本書は、中学受験を控えた主人公・長谷川十和が、公開テストの国語の問題を見てつぶやくシーンから始まる。
 「次の文章を読み、家族の幸せの形を、文章中の言葉を使って40字以内で答えなさい。」
 「そんなのあるならこっちの方が知りたいって」と十和はつぶやく。
 物語は、そんな十和の受験に向けての日々と、彼女が家族に抱えるもやもやとしたものの正体を描いていく。小六女子といえば、思春期の入り口をくぐった辺りで、ただでさえ不機嫌全開になりがち(なんですよ!)なお年頃。加えて十和には、親友にさえも言えない、ある秘密が……、というのが本書の大筋。
 そのもやもやの解決に彼女が見いだした答えは、祖母のいる大阪の私立中学を受験することだった。小一の頃から、集中力に問題がある、と通知表に書かれ続けてきた十和が、そこからどう受験に向き合っていくのか。
 受験と家族。本書で描かれている二つのテーマに共通する鍵は「信頼」で、それが肝。なによりも、「とりあえず死ななきゃ何をしてくれてもかまわない」という十和ママのキャラが最高で、受験には一切口出ししないというのも、これまた最高なのだ。
 十和の受験の顚末(てんまつ)と、彼女が家族に抱いていた屈託とはなんなのかは実際に本書を読んでください。早見さんの読者にはお馴染(なじ)みの、あの〝バカすぎる〟店長もちょっとだけ登場しています。そちらもお見逃しなく。
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はやみ・かずまさ 1977年生まれ。作家。『ザ・ロイヤルファミリー』で山本周五郎賞など。ほかに『アルプス席の母』。