酒井大輔さん「日本政治学史」インタビュー 研究は副業、休日の趣味

東京・霞が関で国家公務員として働きながら、10年がかりで戦後日本政治学史を研究してきた。といっても、研究が本務ではない。あえて大学の外に身を置く在野の研究者を目指したわけでもない。
「公務員の仕事のかたわら休日に純粋な楽しみで研究する。趣味でマンガを描く同人活動とさほど変わりません」
名古屋大学の田村哲樹教授(政治理論)のもとで、大学院修士課程まで民主主義理論を学んだ。独立行政法人に勤め、人材登用の制度を利用して霞が関の本省に転じた。政治にかかわる仕事につくと、自分が学んだ政治学と現実の政治のあいだの共通点や相違点が見えてきた。
「政治学に対する関心がシフトし、どの学説や学問の潮流も、その時代の流行や当時幅広く共有された価値を色濃く反映していると気づいた」
研究者が多い政治理論に対し、研究の歩みをたどる「学史」の研究は層が薄い。ネットに載せた研究メモを読んだ田村教授の勧めに応じ、1本また1本と論文を執筆。「面白さにはまってしまった」
今回、戦後政治学の通史を描くにあたり、1980年代に中曽根康弘首相のブレーンとして活躍した佐藤誠三郎らあまり扱われなかった政治学者も取り上げた。網羅は至難だが研究の流れの全体像を描くような叙述も心がけた。
「政治学の歴史も、新たな学問を立ち上げる『プロジェクトX』のような営みの積み重ね。ある政治学者の主張がまわりにインパクトを与え、ときに誤読も生じる。ある論考への反応も含めて読み進めると、意図せぬインパクトの広がりが見えてくる」
戦後数年の日本政治学会は憲法や社会学などを学ぶ会員も一定数おり、政治学者だけの狭い集まりではなかった。
「政治学は科学なのか。法学や経済学、社会学と何が違うのか。自問自答の来歴をたどれば学問の細分化を超えた広い視野が得られるはず」
今後の研究は――。そう問うと歴史家の顔を見せた。
「研究者の肉声を記録し、関連資料の散逸を防ぐ。政治学史アーカイブの設立が必要だと訴えていきたい」(文・写真 大内悟史)=朝日新聞2025年4月19日掲載