映画「花まんま」鈴鹿央士さんインタビュー カラスと話せる研究者役「より前向きに、力強くなる」

――今作は、前田哲監督が「原作に描かれている兄妹のその後の姿が見たい」と、原作に大きなアレンジを加えて映画化されたと聞きました。原作と脚本を読んだ感想はいかがでしたか?
僕はキャストの方のお名前を聞いてから脚本を読んだのですが、すぐに想像ができて、皆さんぴったりだなと思いました。原作は俊樹とフミ子の子ども時代のことがメインだったのですが、映画の中にもそのストーリーはあって、さらに原作から飛び出て大人になった二人の出来事という、二つの時間軸が描かれているんです。脚本を読んでいると「原作がこうなったのか」と思う部分がたくさんあって、面白かったです。
――脚本を読んで何度も泣いてしまったそうですね。
言葉にするのが難しいのですが、ひとつは感動の涙でした。本を読んでいると、それぞれの登場人物たちの感情が実際に自分の周りにいる人たちへの思いにも重なって、家族や友達など、自分が大切に思っている人たちとの思い出がよみがえってきたんです。「あの時、この人に対してこう思っていたな」といった感情も湧き上がってきて、気がついたら泣いていました。
――鈴鹿さんが演じた中沢太郎は、有村架純さん演じる妹・フミ子の婚約者で、動物行動学の助教という役どころでした。
僕が演じた太郎さんは、原作の最後の1行に出てくる人だったので、それが映画ではカラスと会話できる人になっていたので驚きました。
今回は脚本にプラスして、原作に描かれている子どもの頃と、映画で描かれている大人の間の部分のストーリーや人物像を、前田監督や演出部の方が作ってくださったものも読ませていただきました。例えば、原作ではちらっとしか出てこない太郎さんというキャラクターが、こういう両親の元で育ち、どういう子ども時代を送ってカラスの研究をするに至ったかみたいなことが、結構細かく書かれていたんです。そういうことを踏まえての映画の脚本だったので、太郎さんを演じるのが楽しみでした。
――太郎さんのバックボーンも役作りの参考にしたのですね。
そうですね。それがあったことはだいぶ大きかったです。太郎さんの両親の仕事は何なのか、大学で何を学んでいるのかなど、太郎さんの生活やこれまで歩んできた人生が知れたことは、参考になりました。
――「カラスと話せる研究者」という難役を違和感なく見事に演じていましたが、どのように役をつかみ、撮影に臨んだのでしょうか。
カラスと話せることや、誰かの記憶があるということも含め、物語的に少しファンタジーっぽさがあるんですが、「絶対にありえないことではないな」と思えたんです。どこか現実感があるのですが、フィクションという物語でもある感じがとても絶妙だなと思いました。その中で、カラスとしゃべれる太郎さんも、きっといるんだろうなと思える人。本当に意思疎通ができているかは分からないですが、話しかけたら返してくれるようなことって、カラスに限らずほかの動物でもそう感じることはあると思うんです。作中では割とシリアスな場面も多いので、太郎さんが癒しというか、緩和剤のような人になれたらいいなと思いました。もう一つ、映画では描かれていない太郎さんのとっておきのお話がありまして……。
――おおっ!何でしょう?
フミ子さんとの初めてのデートは、焼き鳥屋さんだったらしいんです。そこで太郎さんが焼き鳥を食べながら「僕はカラスや鳥のこういうことについて研究しているんだ」という話をしていたというエピソードも描かれていて。鶏を食べながら鳥の話をするって、なんだかすごく不思議なのですが、そこにも太郎さんの人物像が見えるなと思ったんです。そういうことを気にせず、自分の好きなことをまっすぐ好きな人に伝えられるのが太郎さんだし、それを受け入れてくれるフミ子さんというところが、個人的に好きでした。
――太郎さんがカラスと会話するシーンは、面白さもありつつ、見ていて違和感がなかったのですが、何か心がけたことはありますか?
撮影するまで、目の前に本物のカラスがいてお芝居するのか、カラスに話しかけたらどんな反応をするのかも分からなかったんです。後からCGなどで合成するのかなと思っていたら、生きているカラスを前にお芝居することになりまして(笑)。
試しに「カカー」と言ってみたら、こっちを見てくれたりうなずいたりしてくれて、本当に会話しているような気持ちになりました。ちゃんとカラスと会話しているんだなと、見た方が思うようにしたかったですし、人や生き物への愛情やまっすぐさといった太郎さんの持っている素敵なところを、カラスと会話するシーンではより出せたらいいなと思って演じました。
――フミ子と太郎さんの関係性も自然で素敵でしたが、有村さんと二人の空気感を作るうえで相談したことはありましたか?
特にこうしようといったことを相談したことはなかったです。有村さんはフミ子さんそのもので、「本番。用意、スタート」となる時間以外でも、ずっとフミちゃんでした。そういう現場での姿勢やお芝居している姿を見て「僕も頑張らなきゃ」と思いましたし、引っ張ってくださりました。
有村さんや亮平さんという大先輩とお芝居できる機会もなかなかないことなので、僕は「ちゃんとしなきゃ」と少し緊張していたのですが、お二人がカメラの回っていないときでも自然に会話してくださって、そのまま本番の撮影に入るような、自然とお芝居しやすい空気感を作ってくださったし、スタッフの皆さんもプロフェッショナルな方々で、その場にいられることが幸せだなと感じていました。
――フミ子との結婚をなかなか認められず、兄の俊樹に圧倒されっぱなしな太郎さんですが、フミ子が嘘をついて外泊をした理由を知るために、俊樹と一緒に探しに行くと言って「関係あります!僕たちは家族になるんですよ」と声をあげたシーンは、初めて感情が表に出たなと感じました。あのシーンではどのように気持ちを作っていったのでしょうか。
そのセリフに込めた気持ちは、太郎さんがずっと持っていることだと思っています。フミ子と家族になることや、誰かと関係性を築く、分かり合う、理解し合うみたいなことを大切にしている人だと思っていたので、その感情が表に出ることは少なかったかもしれないけど、あのシーンまでずっと変わらずに持っている気持ちだったんだろうなと思っていました。
そのシーンのことで言うと、先日、僕が出演した「情熱大陸」を見ていて思い出したのですが、俊樹から「何があってもフミ子を好きでおれるか?」といったセリフを言われた後に、太郎さんが「はい」と一言返事をする練習をしていた時に、前田監督が「その『はい』じゃ妹はやれんな」とおっしゃっていたんです。そのアドバイスをいただいたおかげで、より前向きに、力強くなる太郎さんが僕の中で出来上がって、その思いが本番でも出せた気がしました。
――鈴鹿さんの読書ライフについてもお聞きしたいです。以前、「就寝前の読書が習慣」といった記事を見かけたのですが、最近はどんな本を読みましたか?
今は夜寝る前に読むことはあまりしなくなったのですが、最近読んだのは谷川俊太郎さんの『ひとり暮らし』というエッセイです。
――谷川さんというと「詩」のイメージがあったのですが、エッセイも書いているんですね。
そうなんです。僕も詩のイメージがあったのですが、この本は谷川さんが日々の生活の中で「こういうことを思った」とか「あの時はこうだったな」といったことを、ご自身の視点で書いた短い文章がたくさん載っているんです。僕は自分が思っていることや考えていることを言語化するのがあまり得意なタイプではないので、谷川さんが見たものや感じたことを言葉にするアプローチや感覚、「こういう書き方や表現の仕方があるんだな」とか、どういう視点で物事や出来事を見て、それについてどう思い、どう言葉にするかといったことが、とても勉強になりました。
でも、今こうしてお話ししていて内容を結構忘れているなって気づきました(笑)。ちょうど机の上に置いてあるので、今日帰ったらまた読んでみようと思います。