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「パリピ孔明 THE MOVIE」向井理さんインタビュー なぜ日本語? どうして自分? この作品はすべて超越している!

向井理さん=北原千恵美撮影

(C)四葉夕ト・小川亮/講談社(C)2025 「パリピ孔明 THE MOVIE」製作委員会.

いい意味で期待を裏切るように

――映画はオリジナル脚本でしたが、改めて原作の魅力をどんなところに感じますか。 

 オファーをいただくまで原作を存じ上げなかったのですが、タイトルからは想像できないようなしっかりとしたストーリーで(笑)、原作者の方の三国志に対するリスペクトや愛をとても感じました。「もし三国時代の誰かが現代にいたら」という着想はこれまでのタイムスリップ物とは少し違う角度から切り込んでいて、そこが面白いですよね。

 なおかつ、孔明がやってきたであろう功績を現代に当てはめてみたらどうなるか、という発想も斬新だったので、そこからどういう風に展開していくのだろうと思わせてくれる作品だなと思いました。

――歴史上の人物が現代に転生する、またはその逆の作品は今までもありましたが、本作は「あの諸葛孔明がアマチュアシンガーの軍師になる」といった、その人がそこで何をするのか、という設定が斬新ですよね。

 「なんで中国の人なのに日本語で話しているんだろう?」と思うところもありますが(笑)、そもそもそういった設定を疑問に思うこと自体が間違っているし、この作品はそういうものを全て超越しているんです。

 例えば、日本で有名な軍師というと黒田官兵衛などがいますが、「日本人じゃなくて、中国人なんだ」と、着眼点から全然違うところもいいですよね。それは諸葛孔明のことを知っている日本人が多いからできることだなと思ったし、逆に知らない人は知らない人物でもあるので、知らない人にもちゃんとヒ―ローとしてとらえられるバランスの良さがあると思います。

――実写化されることや向井さんが孔明を演じるということも含めて、ドラマ初回から話題でしたが、視聴者の方の感想はどのように届いていましたか?

 放送後は「しっかり見られる」といった声を多くいただきました。本作は原作やアニメを見ている人が多かったので「これを実写化するのは無理でしょう」と思っている人が多かったと思うんです。僕自身も原作を読んでいて「この作品を実写化するのは結構難しいな、諸刃の剣だな」と思ったので、いろいろな工夫をしていかないといけないし、いい意味で期待を裏切るようにという気持ちはずっと持っていました。

「本当に街中にいたらびっくり」を丁寧に

――孔明を演じるにあたって、原作を参考にした点はありましたか?

 原作はもちろんですが、アニメをよく見ました。アニメだと声という耳からの情報があるので、孔明の雰囲気や喋り方などは演じ方として参考にしました。渋江(修平)監督から「孔明は大河ドラマみたいな感じで」といったことを言われたのですが、僕の中で孔明は5ミリくらい浮いているイメージがあったので、現代人の中に一人だけ大河ドラマの人がいるような感じで、周りの人とは全く違った話し方をしてみようと思いました。

――孔明だけがある種の異彩を放ちながらも、作品を見ていてそこに違和感を覚えることはなかったです。

 クランクインする前に監督やプロデューサーと話したのは「自分から笑いを取りに行きたくない」ということでした。そうすると「落ち」になってしまうし、これだけビジュアルとキャラクターの強い人がいる時点で「それ以上はもう何もしなくていい」と思っていたので、笑いが起きるところを作るのならば、孔明の周りにいる人のリアクションなんですよね。

「本当にこういう人が街中にいたらびっくりする」というところをちゃんと丁寧に作っていったから、視聴者の方もついてきてくれたのではないかなと思います。制作側がそこに慣れて疎かにしてしまうと、視聴者の方が置いてけぼりになってしまうので、そこはみんなで丁寧に作っていたと思います。

――連ドラから映画と続きましたが、これまで孔明をどのように捉えて演じてきたのでしょうか。

 孔明は現代に転生してから何も変わらず、すでに完成した状態のキャラクターだと思って取り組んできました。孔明自身は変わっていないけど、英子がシンガーとしても人としても成長したり、(関口)メンディーくんが演じる前園ケイジが敵対心をむき出しにしてきたりと、周りの人がいろいろと動いて変わっていくんです。その中心に「孔明」というブレない人がいる。周りを変えていく力がある人は心が強いですし、芯がある人。その意識は初めからずっとありました。

コメディーは意外? 役者としてうれしい

――最初に孔明役のオファーが来た時「どうして自分に?」と思ったそうですね。

 自分では今でもその理由は分からないですが、こんな風にいじって遊んでくれるのはすごくありがたいですね。視聴者の方から「コメディーをやるのが意外」といった声もあったようですが、これまでコメディーもやってはいるけれど、「意外」と思われるのも分かります。シリアスな役や作品に偏るよりも「こういう役も向井だったら面白くしてくれるんじゃないか」と思っていただけたことは役者としてすごく嬉しいです。

――個人的には、デビューした20代の頃は、ドラマ「ハチミツとクローバー」や「パラダイス・キス」などの漫画原作の出演が続き、その後は大河ドラマ「江〜姫たちの戦国〜」 で演じた徳川秀忠 や「麒麟がくる」の足利義輝 など歴史上の人物を演じてきた向井さんにとって、この「諸葛孔明」はこれまでの集大成ともいえる役どころだったのではと思うのですが。

 今までにないジャンルだったので、自分にとっても初挑戦だったところはありますし、日々刺激のある現場だったので、成長できたかなと思います。振り返ってみれば、この作品ではいろいろなことをやらせてもらえたので楽しかったですね。

音楽に頼らずストーリーも重視

――映画の見どころの一つである音楽バトルフェスのシーンでは、「音楽が好き」という人たちの思いや、夢中になれるものがある人のパワーのすごさを改めて感じました。

 あのライブシーンは6000人規模の公開収録だったのですが、そんな大勢の前でパフォーマンスをするアーティストの方たちはすごい世界でやっているんだなと改めて思いました。一度あんな経験をしたら「またあのステージに立ちたい」と思う気持ちはよく分かります。もし僕が歌って踊れる人だったら、自分のパフォーマンスでワーッと歓声があがるのは気持ちいいでしょうね。もし来世があったら、その時は歌手になってみたいなと思いました(笑)。

――歌声や歓声を体中に浴びているような感覚になりました。

 現役で活躍しているトップクラスの人たちが出ているので、「まあそうなるよな」とは思いますが、そればかりだと“ただのフェス”になってしまうので「フェス映画」とうたっている以上はストーリーもちゃんとしていないといけないし、孔明が仕掛ける計略があるということは、最終的に伏線を回収しなければいけないので、そのバランスも含めて、脚本が素晴らしかったと思います。

――キャストやフェスの出演者それぞれの配役の妙も感じました。

 キャラクターだけ、台本だけが良くても成立しないので、すべてのパートを担う人たちが適材適所だったなと思いますし、「この人はここ」という配置をするプロデューサーはすごいなと思いました。もしかしたら、僕も孔明ではなく、大手音楽事務所KEY TIMEのプロデューサー唐澤寿彦(和田聰宏)のような他の登場人物になっていた可能性もあった中で、「あの人はこっち」という役割の振り分け方のバランスがとても良かったと思うし、それぞれうまくはまったんだなと思います。

 例えば、詩羽さん(水曜日のカンパネラ)はshinという役がズバ抜けて合っているし、監督やカメラマン、照明や音声、衣装・メイク全てのバランスが良かったなと思うので、本当に作品って総合力だなと思います。役者の力だけではどうもできないことを、いろいろな人たちが力を合わせることでこういう作品ができるということを改めて感じました。

――音楽シーンはもちろん、孔明がどんな計略を使うのかも注目ですが、向井さん的映画の見どころを教えて下さい。

 強いて言うなら、英子の成長を少し感じられる作品になったなと思います。今までは何でも孔明頼みだったのが、今回の映画では離れている時間の方が多いので、共演しているシーンも少ないんです。孔明にばかり頼らず、ちゃんと一人で歩いていこうとしているところが、台本を読んでいても萌歌ちゃんのお芝居を見ていても感じました。

アイヌの文化を学んだ「ゴールデンカムイ」

――今作は漫画が原作ということで、最近読んで印象に残っている作品を教えてください。

 まだ原作が3巻くらいしか出てなかった頃に「ゴールデンカムイ」(野田サトル、集英社)を読んだのですが、面白くてあっという間でした。明治末期の北海道を舞台に、元兵士やアイヌ民族の少女らが隠されたアイヌ民族の金塊をめぐって戦いや冒険を繰り広げる物語なのですが、作者の方がとても丁寧に取材していることが、読んでいて分かるんです。日本には47都道府県があって、それぞれオリジナルの文化がある中で、日本最北端の地で暮らしている人たちの生活の知恵が随所に描かれていて、その一つ一つが理にかなっているんだなということは、エンタメでありながらすごく勉強になりました。

 漫画以外だと、最近は原田マハさんの『リボルバー』(幻冬舎)や、『キッチン常夜灯』(長月天音、KADOKAWA)を読みました。『キッチン常夜灯』は、寡黙なシェフの創り出す魅力的な料理と、陽気なウェイトレスの絶妙な心遣いによって疲れた客たちをほどよく癒していくストーリーで、割とライトに読めるんですよね。「自分にもああいう行きつけがあったらいいな」とか「もし実写化するなら、セリフが少ないマスターの役がいいな」と思いました。食べ物系の物語は、映像との親和性が高い作品だなと思います。