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映画「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」主演・萩原利久さん 理解者は「一人いれば幸せ」

萩原利久さん=有村蓮撮影

(C) 2025「今⽇の空が⼀番好き、とまだ⾔えない僕は」製作委員会

読み方を変えるだけで特別なニュアンスに

――まずは原作を読んだ感想を教えてください。

 初めて読んだとき、言葉のチョイスや並びがとても素敵だなと思いました。それをいざセリフとして口に出した時に、より際立ったり心に刺さったりするのも印象的でした。芸人さんが書かれているので、勝手に「笑いに振っているのかな」というイメージを持ちながら読んでいたのですが、「人の物語」だったので、いい意味で裏切られました。

―― 日常会話が面白く、どこか会話劇のようなところもありながら、詩的な表現や言葉も出てきます。特に心に残った言葉はありますか?

「好き」を「このき」、「幸せ」を「さちせ」という風に、一般的に使われているのではない読み方に変えるという考え方をしたことがなかったので、すごい着眼点だなと思いました。

 確かに「このき」のほうが「すき」よりも言える気がするし、意味や使うニュアンスも同じなのに、読み方を変えるだけで、急に特別なニュアンスになって聞こえるんだなという
気づきがありました。

芝居の根本軸は「話を聞く」こと

――演じた小西は「学内の友人は一人で、さえない毎日を送る大学生」ですが、今回は役へのアプローチが難しいと感じたそうですね。

 これまでは、撮影までに演じる役の軸となる部分を作っておいて、それが合っているかは別として、自分の中での「正解」を作った状態にしておくのが基本的な臨み方でした。それを現場でどう形を変えてハマるか、どう出せるかということをしているのですが、今回は自分の正解が見つけられなかったのが難しかったです。

 とにかく小西はつかみどころがなかったので、役のベースになるものを作るのが難しく、これまでとは違うアプローチに変えなければいけないなと思いました。なので、考えるだけ考えて、あとは現場で感じたものをキャッチしながら役を作っていくというアプローチに変えました。

――演じるうえで意識したところは?

 僕が芝居をする、役を演じる上で軸にしているのは「話を聞く」ことです。台本があってのセリフなので、「聞く」という行為をしないと会話って成り立たないんですよね。これは極論ですが、相手の話を聞かなくても、やろうと思えば芝居で形は作れると思っていて。

 だけど、「聞く」という行為は意識しないと意外に落としがちなんです。日常の会話で当たり前にやっていることをしないと、会話として成立しないと思うので「聞く」ことをちゃんと意識することは、全ての軸になるものだと思っています。

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役に共感できなくても、理解できれば

――小西に共感するところはありましたか?

 小西は自分で決めたことを淡々と遂行していくのですが、僕も割とそういうところがあります。例えば、自分で課した自分へのルールが、周りの人から見たら「そんなこと」と思われるようなことだとしても、僕の中で譲れない部分ではあります。

 ただ、僕自身はポジティブな人間なので、小西の根本的な性格については共感できない部分の方が多かったです。僕も悩まないわけじゃないし、考えようと思えば無限に考えられるけど、答えの出ないことをあれこれ悩んでいても意味がないなと思うんです。そういう時に「世界は広いんだから、もっとスケールを広げて物事を考えてみよう」という考えに行き着きます。

 演じる役に共感できるかできないかというのは、僕の中ではあまり重要ではなく、どちらかというと「理解」ができれば、どんな役でも演じることができると思っています。

――日傘をさすことで集団から自分を「防御」する小西と、お団子頭で「武装」する桜田さん。そんな彼らの行動は理解できましたか? 

 きっと小西も彼なりにいろいろ考えていると思うので、なぜそういうことをするのか、ということは理解できました。少し冷たい考え方かもしれないですが、世の中の人全員が自分と合うとは思わないし、背伸びをして「自分」を演じている状態で誰かといることは疲れてしまいます。ありのままの自分を受け入れてくれる人が一人いてくれたら、それだけでいいなと思うので、山根のような友人が一人いるだけで、小西は幸せだなと思います。

――萩原さんが「集団の中の自分」のあり方で心がけていることはありますか。

「そのままでいる」です。もちろん、わざわざその場を悪くする必要はないけど、かといって全てを人に合わせる必要もないと思っています。その中で「そのままのあなたがいい」と思ってくれる人がいれば、それで十分だなって思うんです。

 小西のように集団の中にいると、どうしてもそこが世界の全てみたいに感じてしまうかもしれないけど、一歩外に出たら思っているよりも世界はもっと広い。そんな中で自分の合う場所や人を探せばいいと思います。

――原作でも印象的だったのがバイト先の「めめ湯」(映画では「七福温泉」)で一緒に働くさっちゃんの、約5ページにわたる長いセリフです。あの場面で、小西は一言も発する隙もなかったけれど、さっちゃんから言われた言葉を一つひとつ考えているように感じました。

 あのシーンでの小西は、聞いているけど聞いていないような感じだったと思います。もちろん、さっちゃんの言っていることは聞こえているけど、小西自身が「聞く」ということを少し疎かにしたり、意図的に遮断したりしていたところもあったのかなと思っています。

 聞いているから何もできない部分もあるし、聞こえているからこそ流している気もするし。もしくは、聞いた上で「ここからどうすればいいんだろう」と考えているのかもしれない。そんないろいろな思いが巡っていたシーンだったと思います。

孤独は打破できる

――小西は集団が苦手ながらも「孤独」を恐れる人でもありました。萩原さんは孤独を怖いと思いますか。

 僕自身が本当の「孤独」を経験したことがないからかもしれませんが、怖いと思ったことはないです。例えば、自分に関わりにある人が全員いなくなって、物理的に「孤独」になったとしたら、もちろんショックを受けるだろうし、ケアするための時間は必要だと思うけど、そこが行き止まりではない気がします。

 人によって「孤独」の感じ方もとらえ方も違うので「これが正解」というものは言えませんが、僕自身は進まないでいることの方がつらいので、現状を変える行動をすると思います。なので、もし「今、孤独だ」と感じている人がいても、自分が前に進もうと思えたら、きっと孤独は打破できるのではないかと思います。