1. HOME
  2. 書評
  3. 「三笠宮」書評 模索続けた「生身の人間」を描く

「三笠宮」書評 模索続けた「生身の人間」を描く

評者: 吉田裕 / 朝⽇新聞掲載:2026年09月26日
三笠宮―昭和天皇末弟の近現代史 (中公新書 2919) 著者:舟橋 正真 出版社:中央公論新社 ジャンル:歴史・地理

ISBN: 9784121029195
発売⽇: 2026/07/23
サイズ: 1.5×17.3cm/256p

「三笠宮」 [著]舟橋正真

 本年7月に改正皇室典範が成立した。改正について、秋篠宮は、「私も生身の人間」であり、「いろいろと思うところは、もちろんあ」るが、立場上「お話しすることができない」と記者会見で語っている。皇室関係者の意向を推しはかることすらなく、改正が強行されたことに対する静かな怒りが感じとれる。
 本書は、昭和天皇の末弟である三笠宮崇仁(たかひと)親王の評伝である。1915年に生まれた三笠宮は、男子の皇族は軍務に服することが義務付けられていたため、陸軍将校の道を歩んだ。転機が訪れたのは、アジア・太平洋戦争末期の支那派遣軍参謀時代だ。中国戦線における日本軍の蛮行をつぶさに見聞した三笠宮は、「聖戦にたいする信念を完全に喪失」し、戦争の終結を強く望むようになる。
 敗戦後は、若い皇族だったこともあって、戦後民主主義をいち早く受容する。東京大学の研究生となって歴史学を学び、マルクス主義やキリスト教にも大きな関心を持った。また、皇室の民主化・象徴天皇制の定着にも力を尽くし、マスコミを通じて積極的な発信を続けた。紀元節の復活であるとして、建国記念日の制定に反対したことはよく知られている。注目すべきことは、すでに、47年の意見書の中で、女帝と天皇の退位の容認、皇族の結婚の自由を主張していることである。
 本書によれば、三笠宮は、皇族としての立場、学者としての立場、戦争に責任のある旧軍人としての立場を常に意識し、模索を繰り返しながら、自らの立ち位置を確定していった。著者は、そうした三笠宮の生涯を、三笠宮家所蔵の未公開史料にも依拠しながら、丁寧に跡付けている。そこから浮かび上がってくるのは、「一人の人間として、絶えずもがく姿」だという。著者が、三笠宮の回想に見られる作為に冷静に目を配っていることも印象的である。「生身の人間」としての三笠宮を描いた労作である。
    ◇
ふなばし・せいしん 1982年生まれ。政治経済研究所研究員(日本近現代史)。『「皇室外交」と象徴天皇制 1960-1975年』など。