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宮内悠介さん「Z線上のピエタ」 ウクライナ取材で目撃した戦禍 母親たちの連帯に希望

「Z線上のピエタ」を出した作家の宮内悠介さん

 作家の宮内悠介さんが戦時下のウクライナを訪れた体験をふまえて書いた小説「Z線上のピエタ」(潮出版社)を出した。義勇兵として従軍した息子を思う母親たちの物語。進行形の惨事を前に作家は何をどう書けるのか、そんな思いを胸に生まれた一編だ。

 「ロシアのウクライナ侵攻は冷戦後の秩序に真っ向から牙をむいた点で、人類史的な出来事だと思います。幼少期をアメリカのウクライナ街で過ごしたこともあり、小説の取材というよりも、まずは現地を見てみたかった」

 2023年、ポーランド経由でキーウへ。侵攻初期に虐殺があった郊外のブチャも訪れ、住民から話を聞いた。多くの人が親族や知り合いを亡くしていた。

 「つらい話を聞き出すことに抵抗があったのですが、うかがってみると、私が書かない限りは失われてしまうかもしれない話が多くて。現地を訪れてみて、やはり書いておきたいと気持ちを新たにしました」

 物語は初老の日本人女性・恭子がワルシャワの空港に降り立つ場面から始まる。ウクライナの日本大使館から息子が戦地で亡くなったとの知らせを受けたのだ。息子と過ごした日々を振り返りながら、恭子はキーウへ向かう。

 「遠い国の話をどう日本につなげるか。まず浮かんだのが義勇兵でした。侵攻直後から戦地に向かった人がいる。彼らの善意は100%疑っていないけれど、100%正しい行動なのか、少し考える時間が欲しかった。そこで、義勇兵となった子を失った母親たちを主人公にしたんです」

 恭子はキーウで、同じく息子を亡くしたアメリカ人のミラに出会う。ふたりは息子の死の真相を確かめるため、レンタカーを調達し、検問を突破し、東部の激戦地ハルキウへ向かう。情報を求めて兵士たちの立ち寄り先を訪ね歩くうち、国籍も性格も経歴も異なるふたりの間に連帯意識が醸し出されていく。

 「シスターフッドが戦争を止めうるなんて、さすがに思ってはいません。ただ、日本で言えば氷河期世代の息子を持つ母親たちの連帯を通して、人種や世代や性別といった分断だらけの世界に向けた、かすかな希望を描きたかった」

 宮内さんは若いころから世界各地を旅し、芸術選奨文部科学大臣新人賞を受けた冒険小説「遠い他国でひょんと死ぬるや」など、海外を舞台にした作品を多く書いてきた。本作で、ふたりの母親が訪れるハルキウは戦禍の爪痕があちこちに残り、しばしば空襲警報が鳴っている。有事と平時の境目があいまいな前線の生々しい描写は、現地を訪れたがゆえの産物かと思いきや、「私が現地に行く理由は、視野を狭めるため、なんです」と不思議なことを言う。

 「取材をしてしまうと、その内容は否定できない。私は何でもかんでも相対化してしまう性質があるのですが、つらい話をじかに聞いて、どっちもどっちだよね~、なんて態度は取れない。創作の幅は狭まり、偏る。でも極端な話、その偏りこそが小説を書く意味だと思っています」

 タイトルの「ピエタ」はキリスト教の重要なモチーフである聖母子像。十字架から降ろされたキリストを抱く母マリアが描かれる。

 「遠い国を扱った話ですが、子を失った高齢女性の連帯と、義勇兵として亡くなった氷河期世代の若者の話です。これは私の話だ、と少しでも思っていただけるなら……そんな希望を持っています」(野波健祐)=朝日新聞2026年10月28日掲載