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『人にはどれほどの本がいるか』/『9割の日本人のための「ゆる読書」入門』書評 遊び倒す小説と自由の利く読書

評者: 美村里江 / 朝⽇新聞掲載:2026年10月31日
人にはどれほどの本がいるか 著者:鈴木 結生 出版社:朝日新聞出版 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784022521477
発売⽇: 2026/08/07
サイズ: 18.8×2.1cm/260p

9割の日本人のための「ゆる読書」入門: “活字マッチョイズム”の終わりと新しい読書推進 著者:飯田一史 出版社:時事通信社 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784788721265
発売⽇: 2026/08/04
サイズ: 13.1×18.8cm/280p

『人にはどれほどの本がいるか』 [著]鈴木結生/『9割の日本人のための「ゆる読書」入門』 [著]飯田一史

 「枢蓼虫(くるりりくちゅう)」は夏目漱石の門下生だった小説家、生前に発表された二つの随想と新たに発見されたテクストを、一個の小説にまとめた……という三篇(ぺん)目のフィクション作品「猫にバイブル」こそ『人にはどれほどの本がいるか』の主役のように感じます。実験的な遊び部分の端々で「本はいいなぁ、楽しいなぁ」と思わせてくれる一冊です。
 表題になった著者デビュー作では、七十歳を超えた主人公「餅之絵(もちのえ)」の「余生における多量の蔵書整理」が描かれます。特に蔵書家仲間と集まって蔵書論を話し合う段では、蔵書=読書遍歴=人生そのものを振り返る旅でもあるので、我が身のことも考えてしまいます。当の餅之絵は、大学に寄贈して識者に評されるのも癪(しゃく)に触るし、古本屋に売って散逸するのは胸が痛いし、二束三文になっては惜しい……。
 殆(ほとん)ど干支(えと)五周分歳(とし)の離れた若き助け手の登場でみるみる進んだ整理により、蔵書だけでなく餅之絵自身の過去の感情まで整頓されていきます。そうして本たちはあるべき場所に収まっていく、本好きとしても嬉(うれ)しい終わり方でした。
 猫に聖書を書く「猫にバイブル」は、幼少期から聖書に親しみ創作の素材にしてきた著者ならでは。二篇目の「完壁な辞書」も言葉のリズムが楽しく、朗読劇にしても面白そうです。
 明治や昭和の時代設定にのまれず全編軽やかなのは、著者の若さではなく生来の遊び心に因(よ)るものではないかと感じます。小説でここまで自由に遊び倒せるとは、先の作品も楽しみです。
 一点だけ、悩んだ末に蔵書を百冊程度まで削減した身としては、餅之絵のような多量の蔵書が再び羨(うらや)ましく……。読書のあり方を広げようとする『9割の日本人のための「ゆる読書」入門』を読み、現在は聴く読書、フォント変更など幅広く自由の利くデジタル読書もある、と心を宥(なだ)めました。
 でもやっぱり、紙の本って素敵ですよね。
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すずき・ゆうい 2001年生まれ。『ゲーテはすべてを言った』で芥川賞▽いいだ・いちし 1982年生まれ。出版ジャーナリスト。