昨年末の忙しさが正月で一段落するはずが、風邪と胃炎でますます仕事が滞ってしまい、部屋が大変に悲惨な状況に陥っていた。ようやっと片付ける時間ができ、積み上がった本など少しずつ移動させているのだが、埃(ほこり)が、すごい。
ほんの数週間のことなのに、なんでこんなに溜(た)まるのか、と脅威を感じるほど、埃だらけである。表面という表面、隙間という隙間、どこもふわふわした灰色の細かいものが、ある。本棚にきっちり並んでいる本の、上部の裁断面にも積もっている。そこのは取れにくい。昔、漫画なんかで本屋さんで立ち読みしているとはたきをかけられる場面がよくあったが、確かにああするしかないと思う。
洗濯物を畳もうとしても、埃がついている。黒い服が多いので、目立つ。粘着テープのいわゆる「ころころ」をかけるが、またすぐつく。黒い服ばかりでも、白い埃が目立つ。こんなに埃が出るなら、服やタオルはすぐに薄っぺらくなってしまうのではないか、といぶかしむ。
洗濯機やエアコンのフィルターにも埃が溜まる。掃除とはすなわち、埃を取ることと言いかえてもいい。掃除機の中にはそれこそ埃が塊になっている。台所には、埃と油が合体した難敵がいる。数年前に、ハードディスクレコーダーが故障して録画していた大量の番組を泣く泣くあきらめたことがあるが、静電気に吸い寄せられる埃が原因だった。しかもわたしはハウスダストにアレルギーがあり、掃除すると必ず涙、くしゃみ、咳(せき)、ひどいときには気管支炎までセットだ。
駅や商業ビルでも、階段の隅に埃のまとまったのが転がっている。毎日掃除しているだろうに、なんであんなに大量に埃がわいてくるのか、と思う。埃は、どこから来てどこへ行くのか。
人類は、その難問を解決しようと戦い続け、数々の便利な道具を作りだして、わたしはその恩恵に最大にあずかってきたけど、敵はまだまだ強大だ。部屋の中に関しては「毎日こまめに」が最も有効だと、身にしみている。=朝日新聞2018年2月19日掲載
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