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「遊戯の起源」書評 その謎の物体、おもちゃかも

評者: 山室恭子 / 朝⽇新聞掲載:2017年05月07日
遊戯の起源 遊びと遊戯具はどのようにして生まれたか 著者:増川宏一 出版社:平凡社 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784582468212
発売⽇: 2017/03/27
サイズ: 20cm/292,11p

遊戯の起源 遊びと遊戯具はどのようにして生まれたか [著]増川宏一

 ようこそ〈遊戯の起源〉博物館へ。人類はどんなふうに遊びはじめたのか、当館では興味深い事例を豊富に揃(そろ)えております。
 まずは○の部屋へご案内しましょう。人類最古の遊具、ボールです。かけっこで速さを競ったり、レスリングで強さを競ったり、と肉体だけの段階から進んで、道具を使って遊ぶようになると一挙に楽しみが広がります。こちらの展示、古代ギリシアの壺(つぼ)には大の男が3人、それぞれ肩車に乗っかって、投げられたボールをキャッチしようと身構えているユーモラスな光景が描かれております。
 ついで□の部屋へどうぞ。サイコロです。こちら、アストラガルスと申しましてね、動物のくるぶしの骨なんです。転がして選択肢を決めるのにぴったりのサイズだったんで重宝されて、ほうぼうの遺跡から出土しております。サイコロと一緒に駒や遊戯盤が登場して、複雑なゲームを楽しめるようになりました。
 さいごに○□の部屋へ。人形です。ユーゴスラビアの新石器時代の粘土像は、吊(つ)り下げられる細工がしてあります。動物のミニチュアもよく作られていて、モヘンジョ・ダロの雄牛は首がくいくい動きます。愛らしいもんです。競わない遊びのかたち、ですね。
 ○に□に○□。館内をかけ足で回ってみました。
 謎の物体が発掘されると、考古学者たちは、よく「なんらかの祭祀(さいし)に用いられたのだろう」と説明しますでしょう。でも、マンモスを追っかけてた人たちって、修道士のごとく敬虔(けいけん)だったんでしょうかねえ。狩りは数日に1度。通勤時のスマホゲームがせいぜいの現代人の10倍くらい自由時間があったはずなんです。けっこう遊び三昧(ざんまい)の暮らしだったんじゃないでしょうか。その謎の物体、おもちゃなのかも。
 ビバ・ホモ・ルーデンス! こんどはもっとゆっくりお訪ねください。ツタンカーメンも遊んだ盤上遊戯セネトで対戦しましょう。
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 ますかわ・こういち 30年生まれ。将棋史・盤上遊戯史を研究。遊戯史学会会長。『日本遊戯思想史』など。