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多彩・異才、2017点描 執筆の研究員ら振り返る

今年亡くなったマンガ家らが残した作品。若い作家の突然の訃報も多かった

若い作家と突然の別れ、悲しむ

 今年、亡くなったマンガ家には急逝、しかもまだ若い作家の訃報(ふほう)が目立った。「風の輪舞(ロンド)」の津雲むつみ(3月)、「友子の場合」の藤野美奈子(同)、「五時間目の戦争」の優(7月)、「ゆめ色クッキング」のくりた陸(同)、「GODSPEED」高畠(たかばたけ)エナガ(8月)、「きょうのきゅうしょく!」のつかじ俊(9月)。突然の別れにファンは驚き、悲しんだ。
 中でもフランス政府芸術文化勲章を受章するなど、国際的評価の高かった谷口ジロー(2月)には海外からも追悼の声が相次いだ。ハードボイルドからSF、文芸、グルメなど幅広いテーマを手がけたが、人間や動物はもちろん、町並みや風景に至るまで、美しくも力強い描線は生命力にあふれていた。「例えば山を描くにも、どこにあるどれくらいの高さの山か、一目でわかるようにしなければならない」とのご発言を思い出す。
 マンガに生涯をかけた各先生のご冥福を祈る。(吉村和真)

現代美術とコラボ、15年で浸透

 今年も数多くのマンガ展が開催された。2万年前の洞窟壁画を紹介する「ラスコー展」もマンガ展として見ると、色々発見があった。
 「THEドラえもん展 TOKYO2017」も話題に。「ドラえもん」をテーマにした28組の現代美術作品が並ぶ同展は、02年の「THEドラえもん展」の“続編”だ。この15年は現代芸術がポピュラー文化になっていく過程だった。「THEドラえもん展」や、同じコンセプトの「GUNDAM(ガンダム)展(05年)」が、マンガやアニメを介して、現代美術を幅広い層に紹介したからだとも言える。
 ならば今度は、現代美術がマンガをどう揺さぶるかを示すべきだが、今回の展示ではそれは感じられなかった。一方、圧倒的な魅力を発していたのが「しりあがり寿の現代美術 回・転・展」。文字通りマンガで美術をひっかき“回”そうという意欲に満ちた興味深い「マンガ/現代美術」展だった。(伊藤遊)

悩み・うつ・「毒親」、エッセー豊作

 今年もエッセーマンガは豊作。特に、人に言いづらい悩みや病気との格闘を描く作品が目立った。代表格は田中圭一の「うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち」。作者自身をはじめ、様々なうつ病体験者が、いかにこの病気から脱却したかをつづった。連載時から話題になっていたが、今年単行本化され、33万部を超えるヒットとなった。
 また、高嶋あがさの「母を片づけたい」、菊池真理子の「酔うと化け物になる父がつらい」など、「毒親」とどう決別するか、あるいはいかに向き合っていくかを描く作品も反響をよんだ。
 いずれも辛(つら)いテーマだが、デフォルメされたキャラによる展開は重くなりすぎない。「エッセーマンガ」というジャンルの本領が発揮される題材かもしれない。同じ悩みを抱える人には共感と光を与え、そうでない人も、当事者以外には理解しづらい心情にこれらの作品を通して寄り添えるはずだ。(倉持佳代子)

真摯さ失わず、スピンオフ活気

 このところ盛況なジャンルが「スピンオフもの」だ。
 福本伸行の人気作「賭博黙示録カイジ」シリーズの敵役を主役に据えた「中間管理録トネガワ」「1日外出録ハンチョウ」や、天樹征丸(あまぎせいまる)・金成(かなり)陽三郎原作、さとうふみや画「金田一少年の事件簿」を犯人側の視点で描き直した外伝「犯人たちの事件簿」などが人気。共通するのは、シリアスな原作に比べてコメディー調のアプローチによる気安さと、描き手が変わっても失われないキャラクターの「らしさ」、原作に対する真摯(しんし)さの絶妙なバランスだろう。
 自らも手塚治虫ら様々な巨匠の絵柄を使い分けるマンガ家・田中圭一が、「イタコマンガ家」(元の作品そっくりの絵でパロディーを描くマンガ家)と呼ぶ作家らも、ウェブを中心に活躍している。キャラへの〈愛〉や先行作品への深い理解を、マンガ家の素養として発揮できる特殊な場が生まれつつあるのかもしれない。(雑賀忠宏)=朝日新聞2017年12月15日掲載