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「友だち幻想」 「みんな仲良く」のしんどさ

友だち幻想―人と人の〈つながり〉を考える [著]菅野仁

 有名人が離婚を発表する時、その理由として「価値観の違い」を挙げることがある。その度に、価値観なんて違うだろ、と思うのだが、人と人とのつながりを表す指標として、価値観の一致が信頼されているようなのだ。友人関係でも同様。人は、相手が自分のことをどこまで理解してくれているか、一致しているのかを確かめ続ける。
 著者は言う。「百パーセント自分を受け入れてくれる誰かがいるはず」という考え方は幻想にすぎない。過度に期待し、裏切られ、傷つく。そんな連鎖を断ち切り、「人はどんなに親しくなっても他者なんだということを意識した上での信頼感」を作っていくべきだ、と訴える。
 「一年生になったら、友だち百人できるかな」という歌がある。私は小学一年生になってから三〇年近く経つが、友だちは百人もいない。欲しいとも思わない。まさしくこういった歌が象徴するように、学校という場が投げかける「みんな仲良く」というメッセージが、人は誰とでも仲良くなれるもの、と幻想を生み出す。その幻想に準じた学校運営は、はみ出す者を生む。その誰かに向かって、はみ出さないで、と繰り返し強いれば、生命の安全すら危うくなる。
 著者は、みんな仲良くという「同質的共同性」ではなく、「並存性」を重視せよという。「親しさか、敵対か」を選ぶのではなく「態度保留」で構わない。親しさでもなく敵対でもない、私はあなたのことがわからないから距離を保つ、という選択肢。その選択肢を、学校のみならず、社会も許容しない。むしろ、択一を強要してくる。
 つながるための方法が、商売としていくつも提示される。「既読スルー」「即レス」といった言葉が関係性を操る言葉として浸透してしまったように、人間関係という幻想にわざわざ輪郭を与え、わざわざ傷ついている。一〇年前の本が、今改めて読まれているのは、「幻想」の強要が、いよいよしんどくなってきたからなのだろうか。
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 ちくまプリマー新書・799円=26刷23万6200部。08年刊行、昨年から売り上げが3倍に。メディアで紹介され加速した。=朝日新聞2018年5月19日掲載