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めまぐるしさ、なつかしい 小説家・逢坂剛

  • 月村了衛『コルトM1847羽衣』(文芸春秋)
  • 三羽省吾『刑事の血筋』(小学館)
  • 板倉俊之『月の炎』(新潮社)

 久しぶりに、昔なつかしいチャンバラ小説を、読んだ気がする。月村了衛の『コルトM1847羽衣』がそれだ。
 公儀の陰謀で、佐渡金山に送られた恋人信三郎を、女侠客(きょうかく)の羽衣お炎が助けに行く。それを、妹分で軽業師のおみんや、同じ侠客仲間の与四松らが支えるという、単純明快なストーリーだ。お炎愛用の短銃は、西部劇でおなじみのコルト45より、ずっと古い型式の六連発リボルバーで、威力はすごいが弾丸の装塡(そうてん)に、時間がかかる。それが、サスペンスを盛り上げる、重要な要素にもなっている。
 一難去ってまた一難と、往時の東映のチャンバラ映画を彷彿(ほうふつ)させる、定石どおりの目まぐるしい展開が、なつかしい。時代劇、西部劇の全盛時代に育った世代の読者には、こたえられない小説だ。
 “警察家族”小説を謳(うた)う『刑事の血筋』は、なるほど従来の警察小説とは一味違うテイストを持つ。キャリアの高岡剣、ノンキャリアの守の、性格の異なる兄弟の警察官が、これまた警察官だった亡き父親の残した謎を、対立したり協力したりしながら、説き明かしていく構成だ。著者自身の父親も警察官とのことで、警察の仕組みや捜査態勢、暴力団のシノギなどが細かく描かれる。物語は、兄弟による交互の視点で進行し、それぞれの性格がうまく書き分けられている。兄弟の母親や、弟の同僚久隅、兄の助手の早苗などの脇役に精彩があり、物語に厚みを加える。テーマは警察の裏金作りと、暴力団による戸籍の売買で、とくに目新しいわけではないが、その複雑な仕組みがよく調べられており、独自の立ち位置を主張出来る作品だ。
 『月の炎』は、古きよき時代の少年小説の雰囲気があり、ことに中盤までは〈少年探偵団〉を思い出させる、ノスタルジックな小説だ。主人公の弦太は、消防士だった父を火事で失い、母と暮らす一本気な小学五年生。連続放火事件の犯人捜しが、物語の核になっている。ミステリーとしては、ややアンフェアな憾(うら)みがあり、解決にも強引さが目立つが、弦太の一途な思いにねじ伏せられ、納得させられてしまう。やさしくてしっかり者の母親と、弦太の親友涼介の突き抜けた明るさが、重い結末を救っている。=朝日新聞2018年4月15日掲載