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エマニュエル・マクロン「革命」書評 「新しい人」の政治参加を生む土壌

評者: 出口治明 / 朝⽇新聞掲載:2018年06月09日
革命 仏大統領マクロンの思想と政策 著者:エマニュエル・マクロン 出版社:ポプラ社 ジャンル:社会・時事・政治・行政

ISBN: 9784591158357
発売⽇: 2018/04/06
サイズ: 19cm/373p

エマニュエル・マクロン フランス大統領に上り詰めた完璧な青年 著者:アンヌ・フルダ 出版社:プレジデント社 ジャンル:社会・時事・政治・行政

ISBN: 9784833422758
発売⽇: 2018/03/27
サイズ: 20cm/287p

「革命」[著] エマニュエル・マクロン /「エマニュエル・マクロン」[著] アンヌ・フルダ

 トランプ米大統領の登場により、メディアはグローバリゼーションや地球温暖化対策は曲がり角に差し掛かったと報じた。英国の欧州連合(EU)離脱についてもEUの将来を悲観的に見る報道が多かった。しかしフランスでは、グローバリゼーションを真正面から受け止めEUの強化を愚直なまでに訴えたマクロン大統領が誕生した。『革命』はマクロンが大統領選に出馬するために書いた本だ。と聞けば、誰しも構えて読むのが普通だろう。それにもかかわらず、本書は実に魅力的だ。
 第1部は「思想」。勤勉であることを教えてくれた祖母、高校生のとき恋に落ちた教師ブリジットとの出会い。次に、なぜ「前進!」を立ち上げ大統領選に出馬したのかが説明される。そしてフランスという国家は人々を解放する一つのプロジェクトであり、それを目指す共和制だと定義づける。
 第2部「戦略」では、フランスがなすべきことが明瞭に語られる。人的資本への投資が第一。「環境問題こそ、フランスがトップに立たねばならない」とマクロンは言い切る。「自分の仕事で生計をたてられること」が基本で「持たざる人々により多くのことをし、最も弱い者を守る」。政府が地方に約束できる時代が過ぎ去った中での大都市の発展と地方創生をどう考えるか。優先順位が明確で整合性がとれており、わが国にもそのまま適用できそうだ。
 第3部は「未来」。マクロンは冒頭に歴史を持ってくる。歴史に学ばない限り「何者にもなれない」。EUに対する姿勢は「ユーロ圏をいまだに完成させていないのは間違いだった」と揺るぎがない。では、いかにして民主的な革命を成し遂げるのか。それは、既成の政治家ではない普通の人々のアンガージュマン、政治参加によってである。「新しい人を国会に投入」して右でも左でもなく前へ進むことによって。
 マクロンは、ごく当たり前のことを言っているに過ぎないのだが、世襲議員が大多数を占めるわが国の現状から見れば何と新鮮に響くことだろう。現に、大統領選挙後に行われた国民議会選挙では、マクロンの与党「共和国前進」が大勝したが、女性が当選者のほぼ半数を占めるなど「新しい人」が大量に国会に入ったのだ。我々は、このような個性的な政治家を生み出した欧州の懐の深さにもっと学ぶべきではないか。
 『エマニュエル・マクロン』は手だれの記者による評論だが、マクロンが強権的な傾向を強め、財政赤字の問題が立ちはだかっていることを指摘している。政治家は、理念や思想ではなく結果で評価されるので、この先マクロンがどんな結果を残すのか楽しみだ。
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 Emmanuel Macron 1977年仏北部生まれ。投資銀行を経て経済大臣。2017年、39歳で第25代仏大統領に就任。
Anne Fulda 63年生まれ。仏「ル・フィガロ」紙の政治記者。